2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K03448
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
佐藤 純 お茶の水女子大学, ソフトマター教育研究センター, 特任講師 (10735723)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 量子可積分系 / 非平衡ダイナミクス / ベーテ仮説 / ストリング解 / ASEP |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに引き続き,ベーテ仮説を用いた量子可積分系のダイナミクスの厳密計算の研究に取り組んだ.量子系に付随するベーテ仮説方程式の研究を主に行った.特に,ストリング解と呼ばれるベーテ仮説方程式の複素解を詳しく調べた.前年度はスピン1/2ハイゼンベルクXXZ鎖のmassive領域での厳密なBethe量子数の構成に成功したが,今年度はASEP(Asymmetric Simple Exclusion Process)と呼ばれる可積分な確率過程模型に付随するベーテ仮設方程式の解,特にストリング解の解析を行った. ASEPは古典確率過程模型であるが,虚時間発展する量子多体系とみなすこともできる.また,非平衡定常状態を記述する最も基本的な模型であり,かつ可積分であるため,非常に重要な模型である.我々は粒子のホッピングの非対称性を表すパラメータεを導入し,これが模型に内在する非平衡性を特徴付けることを議論した.ASEPにおいて,非対称性パラメータεをゼロにする対称極限をとると,スピン1/2ハイゼンベルクXXX鎖に移行する. 模型に内在する非平衡性が,ストリング解の複素平面における分布にどのような影響を与えるか,解析的に,また,数値的に詳細に調べた.その結果,模型の非平衡性を反映して,ストリング解の構造は大きく変化し,Bundled stringと呼ばれるある特徴的な構造を取ることを発見した.また,これはTASEP(Totally Assymetric Simple Exclusion Process)と呼ばれる粒子が1方向にのみホッピングする極限で,たわみが発散して崩壊することを発見した.これらの結果を用いた非平衡ダイナミクスの研究は,今後の課題である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である量子多体系の非平衡ダイナミクスの理解に向けて,非平衡性を表すパラメータの導入とそれがベーテ仮説におけるストリング解に与える影響を詳細に調べることに成功したため.
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Strategy for Future Research Activity |
今回明らかになったbundled stringを用いて,非平衡性を内在した量子多体系のダイナミクスを詳細に解析する.従来は境界駆動型の非平衡性の研究のみしかなされていなかったが,今回の研究成果により非平衡性をハミルトニアンに内在した非エルミートな模型に対しても,ベーテ仮説とストリング解を用いてダイナミクスを計算できるようになると期待している.
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Causes of Carryover |
物理学会が中止になるなど,出張をいくつかキャンセルしたため,次年度使用額が生じた.繰り越した分は,さらなる計算機資源の増資のために計算機,計算機 周辺機器に使用する予定である.
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