2018 Fiscal Year Research-status Report
Hierarchical and Circular Flow Structures in Directed Networks
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18K03451
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
家富 洋 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20168090)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有向ネットワーク / 流れ構造 / 階層性 / 循環性 / Helmholtz-Hodge分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
ノードとそれらをつなぐ向き付きのリンクから構成されネットワーク上には,様々な流れ構造が存在する。本研究の目的は,そのような有向ネットワーク上の流れ構造を,特に階層性と循環性に注目し,解析に必要な手法を開発するとともに,得られた解析手法をいくつかの応用上も重要な現実の有向ネットワーク系へ適用することである。 解析手法の開発面においては,ヘルムホルツ・ホッジ分解,コミュニティ抽出,蝶ネクタイ構造分解,バネ電気モデルによる可視化などを組み込んだ統合的解析ツール(FALCON)の開発を開始し,すでにそのプロトタイプを作成し,GitHub上で公開した。ヘルムホルツ・ホッジ分解は,有向ネットワーク上での流れ構造を勾配流成分とループ流成分へユニークに分割する。 具体的な解析対象として,企業間取引関係,貿易収支関係および株所有関係を取り上げた。それぞれのネットワークについては,我が国の約100万社間の約500万取引を含む東京商工リサーチ社のデータ(2016年収集),IMFにより公開されているDOTS(Direction of Trade Statistics)データベース,東洋経済新報社によって収集された国内上場企業に対する大株主情報データベース(最大で上位30位まで)から構築した。企業取引ネットワークにおける取引流の循環成分に着目すると,より明瞭に産業コミュニティを抽出できることを明らかにした。また,2国間の貿易は大きく不均衡であっても,貿易収支を多角的な視点で捉えれば(第3国を通じての間接的な貿易関係を考慮),両国は貿易によって互恵関係を持ち得ることを指摘した。株所有ネットワークについては,まず蝶ネクタイ構造(入力成分,強連結成分,出力成分)に分解し,さらに強連結成分に対してヘルムホルツ・ホッジ分解を適用することにより,複雑な株式持合い関係を紐解いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
解析手法の開発ならびに現実の有向ネットワーク系の解析の両面において,当初の計画通りに順調に研究を進めている。加えて,ブログやSNSなどのソーシャルメディア上で形成されるエコーチェンバーを分析するにあたり,本研究で開発中の数理的手法が有効であることを発見した。エコーチェンバーとは,同じ意見をもつ人たちがコミュニティを形成し,その中で偏向した情報がエコーのように反復されて,どんどん増幅される状態を表す。もし対立する意見についてそれぞれのエコーチェンバーが形成されれば,その中の人々は,異なる意見に触れる機会を逸してしまい,ひいては大きな社会的分断を導く可能性がある。以上のように,より本研究のスコープが広がり,当該の自己評価を与えた。
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Strategy for Future Research Activity |
有向ネットワーク上の流れ構造を解析するための統合ツール(FALCON)の開発においては,さらに計算の高速化・効率化を図るとともに,利用者にとって使い易い環境を整えていく。また,具体的な研究対象である1)企業間取引ネットワーク,2)貿易ネットワークおよび3)株所有ネットワークについては,次のように解析を深化させる: 1)既存の産業連関表(業種レベル)と組み合わせることにより,企業間取引の量を推定し,企業レベルの産業連関表を構築 2)品目別の貿易データから多層的に貿易関係を解明 3)得られた株所有構造に基づき,企業の市場的価値を計測する新しい方法を提案 合わせて,大規模なSNSデータを収集・解析することにより,エコーチャンバーの構造および形成過程について詳細な知見を得る。
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Causes of Carryover |
研究成果が想定以上に出始め,次年度に国際会議等で発表するための旅費を確保すること必要となったため,データ解析を効率的にかつ高速に行うために導入を計画していたコンピューターの購入を見合わせことが,次年度使用額が生じた主たる理由である。残額はその目的どおりに使用する計画である。なお,コンピューターについては,別の予算で更新できる目処がたっている。
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Research Products
(24 results)