2019 Fiscal Year Research-status Report
Hierarchical and Circular Flow Structures in Directed Networks
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18K03451
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
家富 洋 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20168090)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有向ネットワーク / 流れ構造 / 階層性 / 循環性 / Helmholtz-Hodge分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,有向ネットワーク上の流れ構造を,特に階層性と循環性に注目し,解析に必要な手法を開発するとともに,得られた解析手法をいくつかの応用上も重要な現実の有向ネットワーク系へ適用することである。今年度の研究実績は次のとおりである: 1)昨年度から継続して,GitHub上で公開した統合的解析ツールFALCON (Flow Analysis Tools for Large-Scale Complex Networks)の改良を進め,計算の高速化・効率化を図るとともに,利用者にとって使い易い環境を整備した。 2)東洋経済新報社の上場企業に対する大株主データ(1988年から2008年まで)に基づき,日本企業の株式所有関係を有向ネットワークとして捉える研究をさらに進めた。ネットワーク中に含まれる巨大な強連結成分(GSCC)は,大きなスケールの株式持ち合い関係を反映する。GSCCのコミュニティ解析を行い,その構造変化を追跡した。GSCCのコミュニティ分割は明瞭であり,モジュラルティの時間変化は、強連結成分のクラスター化が進行したことを示す。 3)我が国の産業連関表の内生部門データ(1970年から2015年まで概ね5年おきに更新)から産業連関ネットワークを構築した。1970年ではサプライチェーンから期待される階層性が強い産業連関構造であるが,近年では循環性が階層性と同程度になるまでに成長した。一般に複雑ネットワークの進化では,自己組織化(経済活動における分業など)によって階層性が進むと期待されるが,進化の方向が逆なのは興味深い。 4)Thomson Reuters社のGlobal Equity Ownership Dataを使って,世界規模での株所有構造とその時間変化を解明する研究を開始した。間接所有を含めて最終的に株主がどの企業の価値をどれほど所有しているかを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き,統合的解析ツールFALCONを含めて解析手法の開発,現実の有向ネットワーク系への開発手法の応用とも,当初の計画に従って順調に研究を進めている。また,Robert McKay教授(University of Warwick)を代表とする英国研究グループから本研究に関してコンタクトがあった。同教授らは食物連鎖ネットワークに着目し,その階層性を定量的に明らかにするための手法の開発を行ってきた。他方,本研究の代表者は,有向ネットワーク上の流れ構造の循環性をいかに抽出するかを基本の問題意識として,本研究を立案した。ネット越しに研究交流を行ったところ,驚くべきことに,まったく異なる方向からのアプローチによって,両者は同じ新しい方法論の結果に達した。この事実は,得られた方法が経済・社会ネットワークの解析にあたって非常に強力かつ有望であることを示唆する。このように,本研究が国際的共同研究としてさらに発展することが大いに期待される。
本研究の国際的認知が高まったことを考慮し,当該の自己評価を与えた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度としてこれまで実施した研究の成果のとりまとめを意識しながら,研究計画を進める。特に次の研究課題に力点を置く。 1)有向ネットワーク上の流れ構造を解析するための統合ツール(FALCON)の開発においては,昨年度に引き続き,計算の高速化・効率化をさらに図るとともに,利用者にとって使い易い環境を整えていく。特にWebユーザーインターフェースを付属させることを検討する。 2)本研究で根幹をなすHelmholtz-Hodge分解についての理解を深めるため,ランダム有向ネットワークを例題にその数理的性質について追究する。 3)先行研究との比較,優位性の主張を含めて,グローバルスケールでの株所有ネットワークの研究を展開し,世界における富の所有構造とその時代変化を解明する。 4)本研究で開発中の数理的手法の一つの重要な応用例として,ブログやSNSなどのソーシャルメディア上で形成されるエコーチェンバーの分析がある。これまでに得られた予備的解析結果を基に,エコーチャンバーの構造および形成過程に関して流れの循環性の視点から明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の広がりにより,参加を予定していた国際会議や学会などがキャンセルされたため。今年度は本研究プロジェクトの最終年度であることから,国際会議や学会への参加の機会を増やし,本研究で得られた研究成果を積極的に公開していく。
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Research Products
(24 results)