2018 Fiscal Year Research-status Report
Construction of general purpose model of dynamical networks and its general theory
Project/Area Number |
18K03453
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
守田 智 静岡大学, 工学部, 教授 (20296750)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉村 仁 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (10291957)
伊東 啓 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (80780692)
泰中 啓一 静岡大学, 創造科学技術大学院, 客員教授 (30142227)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 複雑ネットワーク / 感染症モデル / 社会ネットワーク / 冪乗分布 / 確率モデル / 進化ゲーム |
Outline of Annual Research Achievements |
ランダム乗算過程をネットワークに組み込み,新たなモデルを構築するという目標で研究をおこなっている.ランダム乗算過程において変数の変動範囲に下から制限を設けた場合,変数が冪分布に従うことが知られているが,この事実をスケールフリーネットワークの冪的次数分布と統合して理解することで動的ネットワーク理論を整備しようという試みをおこなっている.平成30年度は,これまでにおこなってきた研究を一般化して統合することを目指した.とくにネットワーク上に空間相関のあるランダム乗算過程については離散時間系についてしか考察されていなかったので,現実のシステムに応用するにあたってその連続時間系で拡張をおこなった(Morita 2018).連続時間系の結果が離散時間系と異なる傾向があったため修正が必要なことがわかった.そのため時空間相関とネットワーク構造の関係を明確にすることが次年度以降の課題として残っている.一方で時間変動するネットワークシステムとして世代交代のある性接触ネットワークモデルを構築した.人間社会の性接触ダイナミクスは社会規範等の影響で複雑であることが知られているが,その詳細な構造についてはプライバシーの問題もあり十分な研究はなくデータも著しく不足している.ここでは,いくつかの仮定をおき簡易的理論モデルを構築しシミュレーションを行うことでそのネットワーク構造を考察した.性接触ネットワークの構造が重要な影響を与えるのは性感染症の蔓延現象である.世代交代のある性接触ネットワーク上の性感染症拡散についての結果は,伊東らと共著論文として公開されている(Ito, et al. 2019).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は多くの学術分野にわたって応用されるような動的ネットワークの汎用モデルを構築し,その一般的理論を整備していくことである.平成30年度の研究は主に従来計画していた抽象的なモデリングと当初計画では主に次年度でおこなう予定であった応用面の2つのアプローチから大きく進展した.前者のアプローチは,ランダム乗算過程を用いたネットワークの構築である.このアプローチに関しては下準備としてランダム乗算過程を連続時間へ一般化をおこなっている.その成果の一部は平成30年度の前半に論文になっている(Morita 2018).これは従来の離散時間モデルの結果が連続極限でどのように変わるかを明らかにしたものであり(当初はほとんど変わらないと予想していた),今後のネットワークに従って空間相関があるような実在データへの統計的に扱う手法に応用できる.今のところ数学的な厳密な公式化するまでには至っておらず,動的ネットワークの一般モデルの構築も次年度以降の課題として残った.その一方で後者の応用面からのアプローチでの研究は予想以上に進展した.本研究課題の分担者である長崎大学熱帯医学研究所の伊東らとの共同研究が実を結び2019年に論文となった(Ito, et al. 2019).ここでは出生,死亡,出会い,別離によりネットワークが時々刻々変化している場合の伝播現象の理論研究をおこなった.具体的な対象として性感染症を想定しており,得られた結果は社会医学・公衆衛生学の分野へのインパクトもあり,大学ジャーナルのオンライン版でもHTLV-1やHBVといったウイスル性の性感染症の拡散予測に役立つことが期待されると取り上げられている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は申請当初の予定に従い,ランダム乗算過程を用いたネットワークモデルの構築を進めていく.平成30年度に試みた連続時間モデルへの拡張・一般化はいったん中断して,離散時間モデルでのモデル構築に集中する予定である.理論的な面からは物足りなさも多少あるが,現実にあるデータはほぼすべて離散的であることを考えると,離散時間モデルのほうがデータドリブンという意味でも有効性が高いであろう.そもそも本研究課題では分野横断的な汎用モデルの構築を目指しており,他分野に波及させていく場合もエレガントなものよりシンプルでわかりやすいモデルのほうが好まれると考えている.また,平成30年度で進んだ性接触ネットワークモデルの研究もさらに進展させていく.これまでのモデルは冪乗分布を外的に与えているが,冪乗分布が自己組織的に成立していくモデルに拡張していく.また公衆衛生の重要な問題である性感染症の伝播過程をより明確に記述する数理モデルを構築する.この数理モデルを解析することにより性感染症抑制のための政策提言も可能になるだろう.また長期的な性感染症の進化についても考察する.性感染症を始めとする感染する細菌・ウイルスは,その蔓延の後の弱毒化という現象が知られているが,その詳細な進化メカニズムも解明する.感染症の進化としてより重要な問題に薬剤耐性の進化があるが,この問題についても考察していきたい.これらの現象は,ネットワークの動的構造とネットワーク上の個体の共進化として捉えることができる.感染症伝播,進化ゲーム,さらにリスク・情報・文化の伝播に幅広く応用できる汎用的数理モデルを構築することを目指している.
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Research Products
(3 results)