2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K03454
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
弓削 達郎 静岡大学, 理学部, 助教 (70547380)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 断熱量子計算 / ゆらぎの定理 |
Outline of Annual Research Achievements |
「断熱量子計算において量子的高速化が達成されるならば、その計算途中にマクロに異なる状態の重ね合わせが現れる」という予想がいくつかの具体的な断熱量子アルゴリズムにおいては正しいことを検証した。特に、Glued-Trees問題に対するアルゴリズムにおいても予想が整合的であることを厳密に証明することに成功した。ここまでの結果をまとめて論文誌に発表した。 また、共振器量子電磁気学系におけるゆらぎの定理の拡張を行った。通常、共振器量子電磁気学系からは外部環境系へ光子の漏れ出しが起こる。一方、外部環境系から共振器への光子の供給はほとんど起こらない。そのため理論的にこの状況をモデル化する際には、前者の影響のみを取り入れた量子マスター方程式を用いることが多い。この理論モデルにおいては通常の熱的な励起・脱励起の場合よりも強い不可逆性が生み出される(絶対不可逆性という)。別の言い方をすると、通常の熱的環境の場合には満たされる局所詳細釣り合いの条件が成り立たなくなる。絶対不可逆性のある状況ではゆらぎの定理は修正を受けることが先行研究により知られている。本研究では共振器量子電磁気学系における絶対不可逆性がゆらぎの定理にもたらす影響を調べた。その結果、先行研究と同様の影響に加えて新たな修正項が現れることを見出した。さらに、光子の漏れ出しが小さい状況ではこれらの修正項が共振器損失レートと観測時間の積に等しくなることも見出した。この結果は現在論文にまとめているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
断熱量子計算における予想に関しては、Glued-Trees問題に対する断熱量子アルゴリズムではこれまで数値計算による検証しかなかったが、今回の証明によって予想の確からしさがより高まったため、本研究の目標の一つに少し近づいたと言える。また、共振器量子電磁気系において拡張したゆらぎの定理からは、この系における熱力学第2法則に相当する不等式も得られる。このため、この系を熱機関として用いた場合の効率限界という本研究の目標に関連した結果が得られている。以上のことから順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
状態間遷移にかかる時間を評価する一般的方法の構築を進める。Mandelstam-Tamm boundを拡張する方針で遷移時間の下限の評価方法の構築を試みる。さらにいくつかの具体的なモデルで遷移時間の直接計算を行い、一般的方法による下限と整合的になっていることを確認する。
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Causes of Carryover |
物品にかかる費用が当初計画よりも節約できたため次年度使用額が生じた。 学会等での発表にかかる費用に当てることを計画している。
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Research Products
(2 results)