2020 Fiscal Year Research-status Report
磁場効果を取り込んだ第一原理計算手法の開発とそれを用いた磁気現象の解析
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18K03461
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
樋口 克彦 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 准教授 (20325145)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋口 雅彦 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (10292202)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ラシュバ効果 / グラフェン / g因子 / 仕事関数 / 電流密度汎関数理論 / 磁場下固体 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、「非摂動MFRTB法」によって磁場下グラフェンの電子状態を計算し、グラフェン特有の大きな反磁性磁化が再現できることを示しました。反磁性磁化からグラフェンに発生する内部磁場を計算し、その内部磁場がg因子の低下に寄与していることを明らかにしました。しかし、実験で観測されているg因子の低下を説明できるほど反磁性磁化による内部磁場の効果は大きくなく、他に原因があることが示唆される結果でした。 g因子の低下が観測されている基板上グラフェンではラシュバ効果が発生することが予想されます。今年度はラシュバ効果がg因子に与える影響を理論的に調べました。本研究で開発している「非摂動MFRTB法」にラシュバ効果を取り込むためには、グラフェン表面に形成される仕事関数による表面ポテンシャルを見積もる必要があります。本年度はラングとコーンによる表面ポテンシャルの研究を参考にし、グラフェンに対する表面ポテンシャルを近似的に求めることに成功しました。得られた表面ポテンシャルの有効性を確認するために、磁場下グラフェンを磁場が印加された擬二次元電子として扱い、ラシュバ効果がg因子に与える影響を計算しました。その結果、実験結果を説明できる程度にg因子がラシュバ効果により低下することが確認できました。 上記の研究成果に加えて、磁場下超伝導体に対する第一原理計算理論である電流密度汎関数理論に基づく数値計算を実行するための手法を開発しました。本計算手法では磁場下固体の常伝導状態における電子状態を利用するため、将来的には「非摂動MFRTB法」を利用することができます。これは当初の研究計画には記載されていませんが、超伝導体に対する電流密度汎関数理論はマイスナー効果を記述できる唯一の第一原理計算理論で、本研究で発展・応用していきたいと考えています。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに4つある目的のうち、目的1「パイエル位相を超えた磁場効果を取り込んだ「拡張MFRTB法」の開発、目的2「拡張MFRTB法による金属磁性の理論的予測」に関しては、実現できたのではないかと思います。目的1は「非摂動MFRTB法」の開発で目的が達成されました。この手法は、計画当初「拡張MFRTB法」と呼んでいましたが、計算手法の特徴を具体的に表した「非摂動MFRTB法」と現在では呼んでいます。また昨年度に実行したグラフェンの反磁性を再現できたことで「非摂動MFRTB法」による磁性計算が有効であることが示されました。これにより、目的2もおおむね達成できたと思います。本年度は上述のように目的3「拡張MFRTB法によるスピントロニクス材料のg因子の理論予測」の達成に目途が立ちました。目的4に関しては、当初の予想以上に考慮すべきことがあり、予定よりやや遅れています。しかし、目的4の遂行に向けて、理論開発およびプログラム開発を進めています。 さらに、磁場下固体の電磁場応答を記述するための第一原理計算理論である動的電流密度汎関数理論の開発、磁場下超伝導体におけるマイスナー効果を記述できる理論開発と当初の計画には記載されていない重要な成果も得られています。これは、本研究課題の波及効果の大きさを表すものと考えています。 以上より、研究全体では当初の予定通り進んでいるといって良いと考えられます。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、まず目的3の完了を目指します。昨年度得られたグラフェンに対する表面ポテンシャルを「非摂動MFRTB法」に取り込み、グラフェンの小さなg因子の原因解明を目指します。 さらに目的4「拡張MFRTB法による量子ホール効果の再考」の遂行に向け、「非摂動MFRTB法」により得られる磁場下固体のエネルギーバンド構造と電気伝導の関連を明らかにします。具体的には、磁気的ブリリュアンゾーン内で記述される磁場下固体に対するエネルギーバンド構造において異常速度がどのように記述されるのかを明らかします。また、得られた知見から、グラフェンで観測されている半整数量子ホール効果の再考を行います。従来のホフスタッターの方法では縮退していたエネルギー準位が、非摂動MFRTB法では、分裂することが分かっています。従来の半整数量子ホール効果の解釈がどのように補強・修正されるのかを検討します。 非摂動MFRTB法では従来の理論では記述できなかった微細なエネルギー準位構造の記述が可能です。実際に微細なエネルギー準位構造に由来する「付加的な磁化振動」がdHvA振動に加えて発現することが分かっています。また、目的2を達成する際に明らかになったことですが、フェルミエネルギー近傍のエネルギー準位だけでなく、フェルミエネルギーよりも低い占有されたエネルギー準位の磁場依存性により磁化が振動する現象が見られています。このような新奇物性の探索も非摂動MFRTB法を用いて行います。
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Causes of Carryover |
当初予定していた国内外の学会発表が、新型コロナの影響で取りやめになり、旅費が残りました。当初、本研究の遂行には現有の計算機のメモリ増補などで対応する予定でしたが、このような状況になったため、研究効率の向上が見込まれる目的で繰り越した研究費を使用する予定です。具体的には、当初予定していたメモリの補修に加え、新規計算機の購入を考えています。これにより、現在、多くの時間を計算に費やしていますが、大幅に計算時間が短縮され、研究成果の増加が期待できます。
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Research Products
(3 results)