2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K03468
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
秋元 琢磨 東京理科大学, 理工学部物理学科, 准教授 (30454044)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非平衡統計力学 / 異常拡散 / 無限測度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、原子が極低温まで冷却される過程、つまり、原子の運動量がゼロへ向かっていく、言わば、非定常な過程の物理の理論的な枠組みを構築することを目標としている。このような非定常な過程のダイナミクスを明らかにすることは、従来の統計物理の枠組みを超えた研究であり、物理の新たな研究分野の開拓に繋がる挑戦的な研究である。本研究では、特に、subrecoil laser cooling における原子の冷却過程を記述する確率モデルを用い、原子の運動量の不変分布を明らかにすることと冷却されている原子のダイナミクスを解明することを目的としている。 2020年度には、4本の学術論文を出版することができた。その内の1本は、本研究課題と密接に関係するもので、レーザー冷却モデルを一般化した確率モデルにおける規格化できない形式的な定常状態(無限測度)の存在を明らかにし、観測関数の時間平均に関する分布極限定理を証明した。この定理は、力学系における無限測度エルゴード理論と関係しているもので、観測関数が無限測度に関して積分可能(発散しない)か積分不可能(発散する)かによって分布関数の形状が異なることがわかった。また、別の論文では、非定常過程(ブラウン運動における再帰時間)におけるエイジングの影響(観測を始める時間に統計量がどのように依存する)かを明らかにした。この結果は、一般化することが可能で、確率論でよく知られている逆正弦定理の拡張を行うことができた。このように、2020年度では、非定常過程の物理の基礎論のいくつかを示すことに成功し、その成果を論文として出版することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のため、対面による議論が難しかったが、2020年度は4本の論文を出版することができた。特に、本研究課題の目標であった subrecoil laser cooling における冷却されている原子のダイナミクスを解明に向けた理論的な枠組みを簡単な確率モデルで構築することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、subrecoil laser cooling と関係した一般的なモデルにおける規格化できない定常状態(無限測度)の存在の証明とその役割(無限測度エルゴード理論)の明らかにしてきた。今後は、より具体的なレーザー冷却の確率モデルに対して、無限測度エルゴード理論を応用し、冷却されている原子のダイナミクスを解明する。特に、モデルのパラメータと実際の実験との比較を行い、実験への提案も検討していきたい。
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Causes of Carryover |
当初、対面での議論を行うための旅費を計上していたが、コロナ禍のため、出張することができなくたったため、旅費の部分で使用額に余っている状況である。また、論文出版費用がかからなかったため、その他の項目でも余りが生じている。本年度、出版予定の論文は、オープンアクセスにするため、予算を計上したい。また、コロナ禍が収束した暁には、対面での議論を行うための旅費も使用する予定である。
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