2020 Fiscal Year Research-status Report
X線ラマン散乱を用いたCaCu3Ti4O12の誘電異常と電子構造の相関の研究
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18K03477
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
手塚 泰久 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (20236970)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 誘電異常 / 電子構造 / X線ラマン散乱 / 共鳴X線非弾性散乱 / X線発光 / 蛍光X線ホログラフィー / 高圧実験 / Aサイト秩序ペロブスカイト |
Outline of Annual Research Achievements |
Aサイト秩序ペロブスカイトであるCaCu3Ti4O12(CCTO)は、室温を含む広い温度範囲で極めて大きな誘電率を示す一方で、約100K付近で構造変化を伴わずに誘電率が急減するという誘電異常を示す。研究3年目である本年度は、一昨年・昨年度に引き続き、高エ研PFにおいて軟X線及び硬X線ラマン散乱(XRS)と蛍光X線ホログラフィー(XFH)実験を行った。硬X線ラマン散乱では、非占有Cu 3d及びTi 3d状態、軟X線ラマン散乱では占有O 2p状態の電子構造の研究を行った。共に温度依存性の測定を行い、Cu 3d及びTi 3d状態は低温で増加し、O 2p状態は減少する結果が得られた。特にCu 3d状態は、100K近傍で急増しており、誘電異常に対する電子構造の影響を示唆している。本年度は、外部駆動の回転機構の立ち上げを行い、極低温での方位角依存XRSの実験が可能にした。これまでに標準試料での検証実験が済んでおり、今後CCTOでの本実験を計画している。更に、軟X線ラマン散乱で、偏光依存のTi 2p及びCu 2p共鳴XRS実験を行い、それぞれの内殻における電荷移動励起やdd励起を観測している。これらは、これまで報告されていない素励起であり、今後温度依存性の実験で誘電異常との関連性を明らかにしたいと考えている。XFH実験では、昨年までに室温と誘電異常温度以下の80Kで測定を行ったのに加えて、誘電異常温度直上の120Kでの測定を行い、昨年度までに観測されていた低温におけるTiサイトの秩序化が、100K付近で起こっていることを確認した。本年度は、更に、より低温の10K付近の測定も行い、約25Kで起こる反強磁性転移での結晶構造変化の端緒をとらえている。この他に、Spring-8において、高圧下におけるのX線回折実験及びCu K共鳴XRS実験を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の主目的はCCTOにおける電子構造の異方性及びその温度依存性を測定することである。硬X線ラマン散乱の分光器に試料回転機構を取り付け、電子構造の詳細な方位角依存性を測定すること、さらにはその詳細な温度依存性をできるだけ低温まで行うことが目標である。現有の分光装置ではHe循環式の冷凍機が使用可能であるが、真空内であることもあって単純に回転機構を取り付けることは難しい。予算的な制限の中で機構設計及び機種選定に時間がかったことに加え、メーカーの都合により納期が大幅に遅れたこともあって、立ち上げが本年度にずれ込んでいる。本年度は、予備実験として、構造が既知でシンプルなSrTiO3やBaTiO3、TiO2などの実験をすることで、装置の確認を行った。室温では問題なく方位角依存の実験が可能になり、それぞれの物質で非占有Ti 3d状態の方位角依存が測定できた。一方で、極低温では試料の冷却と回転機構の両立が難しく、今後の改善が必要である。ここまでにCCTOの実験が完了できてないので、課題を1年延長して、次年度に低温でのCCTOの方位角依存実験を行う予定である。 並行して行っているXFH実験では、室温及び、120K、80Kでの実験を行っており、高い誘電率を示している約100K付近までTiの局所構造が無秩序状態を維持し、それ以下では秩序化する結果が得られている。誘電異常の起源であることを強く示唆している。本年度は、より低温の10K付近の実験を行った。約25Kで反強磁性転移が起こるが、その際に局所構造も変化していることが観測された。これはまだ予備的実験であるので、今後転移温度の上下で測定して、先に観測された変化が、相転移によるものなのかどうかを確認していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
硬X線ラマン散乱測定装置に真空外から駆動可能な回転機構を取り付け、約25Kまで冷却できた。室温では方位角依存の実験が問題なくできたが、低温では試料冷却用Cuワイヤーのねじれと、回転機構のピエゾ駆動力の低下が重なり、十分な回転駆動ができていない。また、測定は駆動機構の確認のため、標準試料での測定に留まっている。次年度には、冷却法や試料ホルダーの改良などを行い、低温での回転駆動を確実なものにしたうえで、CCTOの方位角依存XRSの実験を行う予定である。また、測定装置の都合で、現在の実験はTi K端に限られている。Cu K端の測定には、試料まわりの散乱X線のシールドが必要になるが、冷却及び回転機構との共存が難しい。順次、シールドの機構も設置して、Cu K端の実験も行っていく予定である。 蛍光X線ホログラフィーでは、昨年度までの室温と120K、80Kの実験に加えて、約10Kでの実験を行った。約25Kで反強磁性相転移をするが、Tiの局所構造は80Kとは異なり、むしろ室温の構造に近いことが分った。ただし、相転移の影響かどうかは断定できないので、今後相転移温度の上下で測定を行い、相転移との関連性を明らかにしていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
試料回転機構の納入や周辺部品の設計製作の遅れに加えて、予測されなかった回転機構の動作不安定などもあり、実験を完了できなかった。コロナ禍による実験の遅れや、放射光光源の装置不良なども重なっている。次年度に、回転機構の改良を行い、極低温での実験を可能にしたうえで、CCTOの実験を行う予定である。
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Research Products
(7 results)