2020 Fiscal Year Research-status Report
非断熱高精度量子動力学理論の開発と量子揺らぎが物質構造に与える効果の解明
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18K03478
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
富田 憲一 山形大学, 理学部, 教授 (70290848)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 量子動力学 / 強相関電子系 / 非断熱効果 / 多配置理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.(TMTTF)_2X(X=PF_6など)は温度や圧力により多彩な基底状態を有する物質で、近年は電子型強誘電体としても注目されている。本研究では、Su-Schrieffer-Heeger型の電子格子相互作用を伴った拡張ハバードモデルに対して共鳴Hartree-Fock法を適用し(TMTTF)_2Xの電子格子状態について系統的に調べた。同一サイトクーロン相互作用は格子ひずみを増強しdimer-Mott状態を安定化させるのに対して、最隣接サイトクーロン相互作用は電荷移動型基底状態を安定化させる。これらの2相は直接相転移で変化するのではなく、両者が拮抗し格子ひずみと電荷移動が共存する基底状態が存在することを明らかにした。dimer-Mott状態から共存相へは連続的に変化するが、共存相から電荷移動相へは不連続に変化する。強誘電状態は、この共存相に対応していると考えられる。また、実験で指摘されているスピンパイエルス相は本モデルの基底状態としては存在せず励起状態になることも分かった。本研究成果は日本物理学会第76回年次大会において報告された。
2.TTF-CAはサブピコ秒の超高速電場応答をする強誘電体として注目されている。中性相に関しては既に本研究の成果として論文報告されているが、引き続きイオン性相の電子格子状態について研究を進めている。強誘電相はイオン性相に対応しているのでその理論解析は重要である。イオン性相ではTTFサイトとCAサイトに擬反強磁性的にスピンが立っており結合交代も伴っている。共鳴Hartree-Fock法を用いた電子格子状態解析では、スピンソリトンが量子揺らぎとして存在するが、結合交代が反転する格子ソリトンは存在しないことが分かった。
3.共鳴Hartree-Fock法を動力学に適用する定式化は完成し、4次のRunge-Kutta法を用いたコード作成を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
時間依存共鳴Hartre--Fock法に関しては、Dirac-Frenkelの原理に基づいた変分計算の定式化が完成しているが、4次のRunge-Kutta法を用いたコード作成にやや遅れが生じている。変分方程式の構造の複雑さと、時間依存する変分パラメーターの多さ(CI係数、軌道、格子のコヒーレント状態)が問題であったが、特異値展開するなどしてこれらの問題は解決されている。次年度にはコード作成が完成しダイナミクスの計算を行う予定である。
また、新型コロナウィルスの感染拡大により、成果報告する予定の国際会議がすべて延期されたため、成果報告は日本物理学会年次大会に限られた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.非断熱共鳴Hartree-Fock法を量子動力学理論に拡張する。Dirac-Frenkelの時間依存変分方程式を数値的に解く。変分問題の定式化は昨年度終わらせており、コーディングも終わらせる予定であったが、変分方程式が予想以上に煩雑な高次元連立微分方程式となり、非線形構造の理解に時間を要した。現在は、4次のRunge-Kutta法を用いたコーディングを始めており前期に終了させ、後期には以下の計算を遂行する予定である。 2.(TMTTF)_2X(X=PF_6など)の強誘電状態は結合交代と電荷移動の共存相に対応していることを昨年度明らかにした。今後はこれらの研究成果を論文にするほか、高速電場応答の計算を行い、高速デバイスとしての可能性について考察する。 3. TTF-CAはサブピコ秒の超高速電場応答をする強誘電体として注目されている。本物質には電荷移動が起こり強誘電体になるイオン性相と電荷移動が起こらない中性相がある。これまでイオン性相の量子揺らぎはスピンソリトンの並進運動と振動によって記述できることを明らかにしているが、スピンソリトンの量子運動は誘電率の高速変化には寄与しないと考えられる。一方、中性相ドメインによる量子揺らぎは誘電率の高速変化に寄与できるはずだが、現時点で基底状態にそのような量子揺らぎは見られない。今後、パルス電場を加えた時の時間発展を計算することで、誘電率の高速変化がなぜ可能か、を明らかにする。 4.ハロゲン架橋Ni錯体などの擬一次元強相関物質では、電子―格子相互作用の影響も大きく、断熱近似を超えた格子の記述が必要である。大きな量子揺らぎと非断熱効果が光励起と緩和に及ぼす影響を実時間発展を通して明らかにする。 5.課題など:現在までのところ技術的な大きな問題は予想されていないが、大型計算機が必要な時は、物性研究所や分子科学研究所の計算機の利用も考える
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大のため、国際会議及び国内出張がすべて中止または延期され旅費の使用がなく次年度に繰り越された。2021年度は後半に国際会議出席予定(招待講演)であり、また計算ソフトや論文校閲としても予算執行する予定である。
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Research Products
(1 results)