2019 Fiscal Year Research-status Report
Quantum Electrodynamics in Solids: Dynamical Properties of Dirac and Weyl Materials
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18K03482
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
前橋 英明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (30361661)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松浦 弘泰 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40596607)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ディラック電子系 / ワイルフェルミオン系 / 量子電磁力学 / 動的応答 / 核磁気共鳴 / 電磁的双対性 / ゲージ不変性 / 軌道磁化率 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子電磁力学(QED)はローレンツ共変性に起因する電磁的双対性とゲージ不変性をもつ場の理論であり、物質中のQEDではQEDの手法をディラック電子系・ワイルフェルミオン系物質に適用する。したがって、物質中のQEDを用いて計算された動的応答関数は電磁的双対性とゲージ不変性をもつ。ところが、物性理論における標準的な手法に従ってディラック・ワイル系の動的応答関数を計算すると、ゲージ不変性が破れてしまうという困難に直面する。たとえば、正常状態でもマイスナー電流が存在するといった非物理的な結果が得られてしまう。この問題に対し、従来の計算では見落とされていた異常交換関係と呼ばれる寄与に着目することによって根本的な解決に導いた。この異常交換関係に対応して反磁性電流の寄与があることが分かり、これによって理論のゲージ不変性が回復することを示した。 ディラック・ワイル物質の軌道電流に起因する核磁気緩和率の研究については、前年度からの継続として、乱れよって誘起される量子臨界点近傍のワイル半金属の研究を行った。核磁気緩和率の計算に必要な横型伝導度のゲージ不変な定式化、自己無撞着T行列近似の計算結果とワイル半金属に対する実験との比較を追加し、その成果はPhysical Review Bのフルペーパーとして掲載された。また、質量のない擬二次元ディラック電子系物質も新たな研究対象に加え、その軌道電流に起因する核磁気緩和率の印加磁場の方向に関する異方性について理論的に明らかにした。 ディラック・ワイル物質が示す多様性の研究としては、代表的なディラック電子系であるビスマスのネルンスト効果を理論的に研究し、実験で報告されている低温における非常に大きなネルンスト効果は、フォノンドラッグの可能性が高いことを指摘した。また、ノーダルライン状態での軌道磁化率を求め磁場方向に関する異方性の効果を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「物性理論における標準的な手法に従ってディラック電子系・ワイルフェルミオン系の動的応答関数を計算すると、ゲージ不変性が破れてしまう」という困難は古くから知られていたが、その解決法の一つとして最近、変形されたカットオフを導入するという方法が提案され再び注目されていた。一方、物質中の量子電磁力学(QED)から得られるゲージ不変な動的応答関数は、標準的な手法を使っても得られるはずであり、それらが実際に一致することを示すことは物質中のQEDの有用性を知らしめる上でも重要である。このような最近の動向と本研究課題における重要性を考慮し、当該年度の予定を変更してこの問題に取り組み、その根本的な解決へと導いた。 一方、軌道電流に起因する核磁気緩和率の研究は、乱れによって誘起される量子臨界点近傍のワイルフェルミオン系や擬二次元ディラック電子系へと応用し予想以上に発展している。ディラック電子系のネルンスト効果やディラックノーダルライン物質の軌道磁化率の研究も含め、本研究課題は幅広い広がりを見せているといえる。 このような理由で、全体としておおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
ディラック電子系・ワイルフェルミオン系物質の動的応答関数と軌道電流に起因する核磁気緩和率の研究を継続・発展させるとともに、ディラックノーダルライン物質などのディラック・ワイル物質と関連する物質の研究も進める。また、ビスマスやワイル半金属のような三次元ディラック電子系・ワイルフェルミオン系だけでなく、有機導体における擬二次元ディラック電子系もターゲットに含め、実験事実と比較しながら理論研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
日本物理学会第75回年次大会が現地開催中止になったため、予定していた旅費が不要になり次年度使用額が生じた。次年度使用額は物品費の一部として使用する。
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