2019 Fiscal Year Research-status Report
分子二重スリット実験で調べる量子エンタングル状態生成の時間・空間依存性
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18K03488
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
副島 浩一 新潟大学, 自然科学系, 教授 (50283007)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 分子二重スリット実験 / エンタングル状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
遅れている装置開発を完了させ,光電子・オージェ電子間のエンタングル状態を実験的に明らかにする予定であった.高エ研フォトンファクトリ―(PF)の実験装置利用から新潟大学既存の装置を改良する新たな装置開発計画は順調に進行していたが,計画当初から危惧していた,チャンバー内μメタルの厚み不足および開口箇所の多さが原因と考えられる地磁気の侵入による電子軌道に対する影響が予想より大きい事が,予備実験によって発覚した.そこで,μメタルシールドの強化を含むチャンバーの改良を検討したが,予算的な制約が大きく,チャンバーを新たに製作することは不可能であるとの結論に至った.そこで,新しい実験手法の採用も排除せず,広い視野でその対策を再検討することにした.まず,製作済みの電子飛行時間型(TOF)エネルギー分析器を活用できる方法を優先的に模索した.新潟大学および高エ研PFにある既存の装置の中から利用可能な装置や部品を精査したが,電子TOFエネルギー分析器を収納する十分な容積かつ地磁気による電子軌道擾乱を防ぐ十分な磁気シールドという2つの条件を満たす装置,部品は存在しなかった.次に電子TOFエネルギー分析器の利用を前提とせず,電子の角度相関測定が可能な装置の利用を検討した.8月頃に高エ研PFに冷却標的反跳イオン運動量分析器(COLTRIMS)が持ち込まれ,X線チョッパーと組み合わせれば,電子の角度相関の測定が効率的に実施できるとの結論に至り,この測定方法に変更して電子の角度相関測定を進める計画とした.12月に10日程度PFのBL2にて実際にX線チョッパーと組み合わせて電子の角度相関測定が可能かどうかの確認実験をおこなった.電子・電子の同時測定実験は実施できなかったが,試験的に残留ガスのN2からの光電子の角度分布測定をおこなった結果,角度相関測定が可能であることの確認はできた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
分子二重スリット実験用の装置として利用予定であった新潟大学の電子分光装置は,開発済みの電子TOFエネルギー分析器を収容するのに十分な容積を備え,電子TOFエネルギー分析器を利用には理想的な装置であったが,予備実験によってチャンバー内μメタルの厚み不足および開口箇所の多さが原因と考えられる地磁気の侵入による電子軌道に対する影響が予想より大きい事が発覚した.μメタルシールドの強化を含むチャンバーの改良を検討したが,予算的な制約が大きく,チャンバーを新たに製作することは不可能であるとの結論に至った.そこで,製作済みのTOFエネルギー分析器を活用できる方法を優先的に模索したが,新潟大学および高エ研PFにある既存の装置の中には実験に必要な十分な容積かつ十分な磁気シールドの条件を満たす装置,部品は存在しなかった.この時に新しい分析器を使った実験手法も含め広く今後の実験計画を見直したために研究計画は大幅に遅れてしまった.COLTRIMSとX線チョッパーを組み合わせて測定に使用することに計画を変更した後は非常に順調に進行しおり,現在,遅れを取り戻しつつある.しかし,当初の計画からは実験手法が完全に変更になった関係で,予定通りというには不十分な状態である.
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Strategy for Future Research Activity |
COLTRIMSとX線チョッパーを組み合わせれば,電子の角度相関の測定が効率的に実施できることが,昨年12月におこなったPFでの試験実験で確認ができた.分子二重スリット実験には,さらに電子・電子の同時計測が必要になってくる.そこで,本年度5月のPFでのビームタイムで同時計測の試験的な実施を予定していた.しかし,PFの前期ビームタイムがすべてキャンセルとなり,試験測定の実施には至らなかった.今後のPFの運転計画はまだ確定しておらず,6月末に試験的な運転再開をおこなうが,ビームタイムの確保に関しては流動的である.そこで,ビームタイムの確保が出来なかった場合も含め,研究計画を考える必要がある.ビームタイムの確保ができた場合は,まずは電子・電子同時計測の試験測定も兼ねて,水素分子を対象に放出電子の角度相関測定を実施する予定である.その後,窒素分子を対象にした放出電子の角度相関測定をおこない,内殻ホール状態が両窒素原子に生じる2サイト2重コアホール状態の生成量と2重コアホールが片方の窒素原子に偏る1サイト2重コアホール状態の生成量の比を放出電子間の角度相関から得られると予想されるコヒーレンシを使って明らかにできるか否かの検証をおこなう.2サイト2重コアホール状態生成が主要過程である場合はさらに,オージェ電子と光電子間にエンタングル状態が生成するか否かの検証実験をおこなう予定である.一方,ビームタイムが確保できなかった場合は,角度相関測定を効率的に測定できるようにCOLTRIMSの改良を進めると共に,Heランプとチョッパーを使ったオフライン実験ができるか否かの試験実験をおこなう予定である.
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Causes of Carryover |
当初予定していた電子検出器を回転させて多重光電離過程で生じた放出電子間の角度相関を測定する測定方法から冷却標的反跳イオン運動量分析器(COLTRIMS)を使った測定方法へ大幅に変更する必要が生じたため,装置開発用の予算執行を止めた.この執行残分は以下のようにCOLTRIMS改良に使用する予定である.COLTRIMSは反跳イオンの運動量から電子の運動量を決めるために,標的粒子の冷却機構として大排気量の排気装置が必要になる.そこで,X線チョッパーと組み合わせることで角度相関測定を効率的に測定できるように改良を進めると共に,Heランプとチョッパーを使ったオフライン実験用の周辺機器の整備をおこなう.
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Research Products
(3 results)