2019 Fiscal Year Research-status Report
励起子非弾性散乱過程におけるポラリトン的空間伝播による発光機構の解明
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18K03494
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中山 正昭 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (30172480)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 励起子非弾性散乱過程 / 励起子-励起子散乱 / 励起子-電子散乱 / 光子性下枝ポラリトン空間伝播 / 空間分解発光分光法 / 時間分解発光分光法 / 半導体薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. パルスレーザー堆積法により作製したZnO薄膜を対象として、10Kから室温において、空間分解発光特性の系統的な測定を行った。空間発光イメージの測定から、全ての温度領域において、光励起スポットから空間的に離れた試料端で発光スポットが出現することを見出した。試料端の発光スポットを空間選択して、全ての温度領域において、発光スペクトルの励起強度依存性の測定を行い、励起子非弾性散乱過程による発光が選択的に観測されることを確認した。発光ピークエネルギーの温度依存性を励起子非弾性散乱過程の理論に基づいて解析し、10から160Kでは励起子-励起子散乱が、それよりも高温領域では励起子-電子散乱が生じていることを明らかにした。以上のことは、低温領域の励起子-励起子散乱と高温領域の励起子-電子散乱のどちらにおいても、散乱過程の終状態である光子性下枝ポラリトンが光励起スポットから試料端に空間伝播し、試料端での並進対称性の破れによって光子に変換されていることを明確に示している。 2. 真空蒸着法により作製したCuI薄膜を対象として、10Kにおいて、励起子-励起子散乱の空間分解発光特性と時間分解発光特性の測定を行った。空間分解発光特性に関しては、上記1と同様のポラリトン的空間伝播が観測された。時間分解発光特性に関しては、発光速度(発光寿命の逆数)のエネルギー依存性が、光子性下枝ポラリトンの群速度のエネルギー依存性でスケーリングできるという結果が得られた。 3. 有機金属気相エピタキシー法により結晶成長されたGaN薄膜を対象として、200Kから室温において、空間分解発光特性の測定を行った。上記1と同様のポラリトン的空間伝播が観測された。発光ピークエネルギーの温度依存性の解析から、発光の起源が励起子-電子散乱であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書に記した本研究の目的は、以下の通りである。 励起子非弾性散乱過程である励起子-励起子散乱と励起子-電子散乱の発光機構について、散乱過程の終状態である光子性下枝ポラリトンの空間伝播を伴う光子への変換過程に着眼し、多様な半導体試料(GaAs/AlAs量子井戸構造、ZnO薄膜、GaN系薄膜、銅ハライド系薄膜)を対象に、空間分解発光分光法と時間分解発光分光法を駆使して、ポラリトン描像のユニバーサリティを確立する。具体的には、ポラリトンから光子への変換過程では、結晶の空間対称性の破れが必要であり、薄膜構造では試料端に相当する。この観点から、光励起スポットにおいて励起子非弾性散乱によって生成された光子性下枝ポラリトンが空間伝播して試料端で光子に変換されることを、光励起スポットと発光スポットの空間分離特性から検証する。発光ダイナミクスの観点では、励起子非弾性散乱発光速度とポラリトン群速度(空間伝播速度)との相関関係を確立する。このように、空間と時間の両面において、励起子非弾性散乱過程におけるポラリトン的空間伝播による発光機構を系統的に明らかにする。 これまで、GaAs/AlAs多重量子井戸構造、GaAsN薄膜、ZnO薄膜、CuI薄膜、GaN薄膜、及び、InGaN薄膜を対象として空間分解発光分光法による測定を行い、光子性下枝ポラリトンの空間伝播特性を励起子-励起子散乱と励起子-電子散乱の両面で明らかにした。さらに、GaAs/AlAs多重量子井戸構造、InGaN薄膜、及び、CuI薄膜を対象として時間分解発光分光法による測定を行い、励起子-励起子散乱発光速度のエネルギー依存性が光子性下枝ポラリトンの群速度のエネルギー依存性によってスケーリングできることを明らかにした。これらの成果は、本研究の核心となるものである。以上のことから、研究は概ね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
1. これまで、空間分解発光分光法と時間分解発光分光法をそれぞれ独立に用いて、研究計画調書において予定していた多様な半導体薄膜試料における励起子非弾性散乱過程のポラリトン的空間伝播による発光機構を研究してきた。最終年度では、さらなる本質を探究するために、空間分解発光分光システムに時間分解発光分光システムを組み合わせたシステムを構築し、光子性下枝ポラリトンの空間伝播による発光過程の時空間特性の測定を行う。対象としては、これまでの研究実績から、最も精密に測定が可能なGaAs(d nm)/AlAs(d nm)多重量子井戸構造(d=10、15、20)における励起子-励起子散乱を予定している。研究のシナリオは、次の通りである。光励起スポットと試料端の発光スポットの距離を系統的に変化させて、試料端の発光スポットでの発光寿命を測定する。ポラリトン的空間伝播の描像が正しければ、発光寿命は光励起スポットと試料端の発光スポットの距離に比例し、その比例係数の逆数が、原理的には光子性下枝ポラリトンの群速度に相当する。さらに、発光の検出エネルギーを変化させて発光寿命の距離依存性の測定を行い、光子性下枝ポラリトンの群速度のエネルギー依存性を実験的に求め、ポラリトン方程式から計算した群速度のエネルギー依存性との一致性を検証する。この検証が出来れば、励起子非弾性散乱過程におけるポラリトン的空間伝播による発光機構の重要な実験的証拠となる。 2. 新たに、ミニバンド構造を有するGaAs/AlAs超格子を研究対象とし、励起子非弾性散乱過程の空間分解発光特性と時間分解発光特性を測定する。これまで研究してきた多重量子井戸構造と対比して、超格子ではミニバンド構造によって励起子の量子閉じ込め効果が小さいために励起子束縛エネルギーが低くなる。このミニバンド構造の効果について調査する。
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