2021 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical study on highly correlated quantum states and current fluctuations of interacting electrons in nanoscale and mesoscale systems
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18K03495
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
小栗 章 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10204166)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 物性理論 / 量子ドット / 強相関電子系 / 非平衡状態 / 近藤効果 / フェルミ流体 / 電流ノイズ / ケルデイシュ・グリーン関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、非平衡近藤効果の電流ノイズ公式の拡張、トンネル非対称性による三体相関のスピン依存性の分解、強相関U=∞極限の価数揺動領域から近藤領域へのクロスオーバーの振る舞いとその磁場依存性、多軌道SU(N)量子ドット系における三体相関、非局所アンドレーエフ散乱への寄与、等の理論研究を精力的に進めた。電流ノイズの一般公式の拡張にはグリーン関数のみならず、ケルディッシュ形式の非平衡バーテックス関数の低エネルギーの振る舞いに関する情報が必要になる。我々は、有限温度-有限バイアスにおいてワード-高橋恒等式を導き、電子正孔対称性や時間反転対称性が破れた一般の場合に適用できる非線形電流ノイズのバイアス電圧Vの3次項の係数の厳密な表式を得た[1]。この公式は、磁場中における電流ノイズのユニバーサルな近藤スケーリングや、価数揺動揺動領域における多軌道量子ドット系の三体相関に関する研究の基礎となっている。また、量子ドット系では、トンネル結合の左右非対称性が、同一スピンおよび異なるスピンを持つ電子間の3体相関の寄与に差異を与え、その影響が非線形応答電流に現れることを、数値くりこみ群を用いた詳細な計算によって示した[2]。さらに、小林研介氏、秦徳郎氏、Meydi Ferrier氏 等の実験グループとの共同研究を通して、カーボン・ナノチューブ量子ドットの電気伝導度の測定結果が三体相関効果によって説明できることが分かり、プレスリリースを行った[3]。 [1] Oguri, Teratani, Tsutsumi, Sakano, Phys. Rev. B (2022) [2] Tsutsumi, Teratani, Sakano, Oguri, Phys. Rev. B (2021) [3] Hata, Ferrier, Kobayashi, et al., Nat. Commun. (2021)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、量子ドット系や希薄磁性合金等で実現される、多種多様な近藤効果における低エネルギー・フェルミ流体状態の輸送現象に現れる局在電子間の三体相関の影響の解明を目差している。特に、電気伝導度、電流ノイズ、熱伝導度等の輸送係数の第2主要項の振る舞いが、三体相関によって系統的に記述されることを、大別して次の三つの方向から研究進めている:(1)非平衡ケルデイシュ形式の多体量子論を用いた輸送理論の微視的かつ厳密な定式化、(2)数値くりこみ群等を用いた三体相関関数の計算、(3)実験グループとの共同研究による高解像度の測定結果と理論解析の比較検証。現在までに、これら三方向のいずれにおいても、大きな進展があった。 (1)に関して、上記の論文[1]では、非線形応答を含むフェルミ流体の輸送現象を決定する、準粒子の振動数、温度、バイアス電圧の2乗に比例する高次エネルギーシフト、および準粒子のダンピングを引き起こす衝突積分が、バーテックス関数等の場の理論的に微視的に定義される相関関数を用いて系統的に記述されることを、電子正孔対称性や時間反転対称性がない一般的な場合に示すことができた。 (2)としては、局在電子の軌道数、占有数、磁場、トンネル接合の非対称性、電子間相互作用の大きさが異なる多種多様な量子ドット系等において、量子状態を特徴づける三体相関がどのように現れるかを調べている。上記の論文[2]では、その一つとしてトンネル非対称性の影響について具体的な特徴を示すことができた。 (3)に関して、上記の論文[3]では、高感度な非線形電気伝導度の測定結果と理論解析を通し、近藤効果が実現されている量子ドット系の低エネルギー量子状態において電子間の三体相関の検出に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
フェルミ流体論は、元々、液体3Heの正常相の振る舞いを記述する理論として、初め現象論的に、後にグリーン関数に基づく微視的理論としてLandauとその共同研究者等により確立したものである。後に、近藤効果を示す電子系の低エネルギー量子状態を厳密に記述する理論として確立し、現在の非平衡近藤系へと発展を見せている。Anderson模型に代表される量子不純物系は、動的平均場理論を通してバルクの強相関電子系の基本的なモデルとしても確立しているため、本研究を通した理論の発展は量子ドット系に限らす、幅広い分野に適用され得るものである。それらを踏まえて、今後の研究は、次の点を念頭において進める: i) 上記(1)で述べた輸送係数の微視的理論では、電子間斥力はクーロン相互作用が仮定し、Fund結合やスピン-軌道結合はまだ考慮していない。これらを含めた理論定式化の拡張が今後の課題のひとつである。 ii) また、上記(2)で触れた通り、量子不純物系では、軌道数、電子の占有数、磁場等の系のもつパラメータに依存した多彩な近藤状態、および価数揺動状態が低エネルギーで実現される。 本研究ではSU(N)対称性を持つ多軌道系、磁場中や強相関極限等の様々な系おける三体相関の効果を、数値くりこみ群や軌道数の大きな極限からの展開理論を用いて系統的に調べており、今後さらに推進する予定である。また、我々は超伝導電極を含む多端子に接続された量子ドット系における、交差アンドレーエフ散乱と近藤効果の競合が非局所電気伝導に関する問題にも取り組んでおり、多端子系における高次Fermi流体補正の定式化と解析も進める。 iii) 三体相関の実験的検証に関しては、上記(3)の研究で電気伝導の解析を通して行われているが、非線形電流ノイズやその他の輸送係数に対しても原理的には可能であり、今後さらに検討を進めたい。
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Causes of Carryover |
今年度も、COVID-19の感染拡大のため、国内および国外で開催される学会のほとんどがオンラインになった。特に、国内および海外への出張を中止したため、旅 費相当額等を繰り越すことになった。その分は、2022年度の旅費、物品、人件費・謝金、その他の研究経費として有効に使用する。
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Remarks |
これらの記事は、秦徳郎、Medyi Ferier、荒川智紀、小林研介、寺谷義道、阪野塁の諸氏との共著論文を元に作成されたものである。
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Research Products
(17 results)