2019 Fiscal Year Research-status Report
コバルト酸化物におけるスピン軌道量子臨界点のマルチプローブ研究
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18K03503
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Research Institution | Nissan ARC Ltd. (Material Analysis Department, Device Functional Analysis Department) |
Principal Investigator |
富安 啓輔 株式会社日産アーク(マテリアル解析部、デバイス機能解析部), マテリアル解析部、デバイス機能解析部, 主任研究員 (20350481)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡崎 竜二 東京理科大学, 理工学部物理学科, 准教授 (50599602)
小林 義彦 東京医科大学, 医学部, 講師 (60293122)
齋藤 智彦 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 教授 (30311129)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コバルト酸化物 / 励起子絶縁体 / 共鳴非弾性X線散乱 (RIXS) / 角度分解光電子分光 (ARPES) / 電気抵抗率 / ゼーベック係数 |
Outline of Annual Research Achievements |
典型的なスピン状態転移系LaCoO3とその近傍系において、異なるスピン状態間の相境界が創出するであろうスピン軌道量子臨界点ないしは類する異常状態を探索・調査してきた。 1. 近傍系の異常状態:昨年度、等価数化学置換系La(Co,Sc)O3を初めて合成し、各種巨視的実験・量子ビーム微視的実験・理論計算の総合研究により、低スピン状態と高スピン状態の量子力学的な線形結合状態の発現の観測に成功した。この状態はScの低い電気陰性度が誘起したと考えられる。今年度は、LaAlO3とSrTiO3基板上に成長させたLaCoO3薄膜において、共鳴非弾性X線散乱(RIXS)とクラスター計算の併用により、格子ひずみ誘起の複数種の高スピン状態が関与する量子状態を観測・同定した。 2. LaCoO3の輸送特性:電子ドープ系La(Co,Te)O3に対し、温度 100 - 600 K の範囲において電気抵抗率とゼーベック係数を測定した。その結果、電子ドープにもかかわらず非常に僅かな置換量にてゼーベック係数が正の符号に変化した。LaCoO3においてもスピン(スピン状態)ブロッケードにより電子の輸送・移動が妨げられていることが示唆される。 3. LaCoO3の電子構造 [角度分解光電子分光 (ARPES)]:昨年度、真空紫外光実験では、価電子帯頂上のCo 3d t2gバンドに顕著な分散が見られなかった。本年度の軟X線実験 (540-740 eV, 室温) で、同バンドに 0.5 eV を超える顕著な分散の観測に成功した。これは、層状 CMR Mn酸化物のt2g分散が殆どないことと比較し、強いCo 3d-O 2p混成を示唆する。 4. 類型 PrCoO3:Co 2p内殻および価電子帯の硬X線光電子分光 (HAXPES) スペクトルは室温と低温で顕著な温度変化を示さず、室温まで低スピン状態であることを電子構造測定により確認した。他方、コンプトンX線散乱プロファイル [J_z(p_z)] を解析した所、温度 9 K と 300 K の間で空間的異方性に大きな変化が認められた。Pr-4f 結晶場状態の熱活性効果と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
巨視的実験・微視的実験・理論計算のマルチプローブ解析により、以下の各状況に至ったため: ・LaCoO3の等価数置換系に加え、格子歪み系における異常状態の観測と解明が進んだ。 ・LaCoO3の等価数置換系の参照として電子・ホールドープ系の物性評価を進め、特に、電子ドープ系において系統的且つ特徴的な置換量依存性を得た。 ・LaCoO3のバンド分散を、軟X線を用いた角度分解光電子分光測定により、世界で初めて確認した。 ・PrCoO3では、Pr-4f電子状態の温度変化のコンプトン散乱による観測が進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
輸送特性について、等価数置換系La(Co,Sc)O3の結果との比較・検討を進め、また、ホール効果などの相補的な実験手法から本物質群の輸送現象の解明を進める予定である。 角度分解光電子分光について、本年度、室温でのLaCoO3の軟X線測定に成功したが、測定成功率が極めて低かったため、試料ホルダーの改良を行い、室温測定での精度を向上させる。これが成功した場合にはさらに温度変化測定を行い、価電子帯頂上のバンド構造変化が励起子絶縁体的であるかどうかの検証を目指す。 PrCoO3について、コンプトン散乱研究に関し、室温以下での電子運動量分布の再構成を行い、Pr- 4f電子結晶場状態の効果を検討する。これは、(Pr,Ca)CoO3系で理論的に予想された異常状態である励起子絶縁状態について、陽に考慮されてこなかったこの効果の基礎を提供する。また、室温以上について、500 K付近でのスピン状態転移におけるCo-3d電子変化も観測し、その特性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
代表者の富安と分担者の小林が次年度分と合算して放射光実験の各種費用に充てるため
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Research Products
(16 results)
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[Journal Article] Electronic Structure of Sr3Fe2-xCoxO7-d Studied by Photoemission and X-ray Absorption Spectroscopy2020
Author(s)
Rie Naito, Yuta Nakano, Mario Okawa, Hiroki Wadati, Ryouta Nakamura, Jun-ichiro Tozawa, Mitsuru Akaki, Hideki Kuwahara, Takeharu Sugiyama, Eiji Ikenaga, Hiroshi Kumigashira, Enju Sakai, Tomohiko Saitoh
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Journal Title
JPS Conference Proceedings
Volume: 30
Pages: 011073
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Low-energy orbital excitations in strained LaCoO3 films2019
Author(s)
R.-P. Wang, J. Geessinck, H. Elnaggar, Y. A. Birkh_lzer, K. Tomiyasu, J. Okamoto, B. Liu, C.-H. Du, D.-J. Huang, G. Koster, and F. M. F. de Groot
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Journal Title
Physical Review B
Volume: 100
Pages: 165148
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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