2020 Fiscal Year Research-status Report
Syntheses of Quantum Spin-Orbital Liquid Compounds by Advanced Hydrothermal Method and Study of the Magnetic Properties
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18K03515
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
原 茂生 神戸大学, 研究基盤センター, 特命技術員 (60520012)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 結晶育成 / 装置開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
20年度(令和元年度~2年度)の目標として、申請者が提案する光水熱合成法を用いて、量子スピン軌道液体状態を示すBa3CuSb2O9の周辺物質の探索と合成及び物性測定を掲げた。Ba3CuSb2O9はCuサイトがハニカム格子を形成し、CuO6八面体がヤーン・テラー効果を示す。このヤーン・テラー効果が、短時間で局所的に生成と消滅を繰り返すことで、量子スピン軌道液体状態が発現するとされている。特に20年度では、初年度~次年度に作成した光水熱合成装置の性能テストを兼ね、光を照射した場合と、照射しない場合の物質合成を行った。また、前年度から引き続き、装置開発を継続して行った。 当初計画していた光水熱合成炉を卓上で用いられる様、熱浴を恒温槽からマントルヒーターへ変更し、短縮したL字型ミラー付き真鍮製光導波管を使用し、小型化した合成炉を開発した。この小型合成炉と合わせて、光源として前年度に引き続き100GHz・30mWのGunn発振器を用いて、合成条件が確立されているアルカリ土類金属含有セレン化遷移金属酸化物の結晶合成・育成を行った。光を照射せずに育成を行った場合ではCoを含むセレン酸化物で、粉末又は球状成長でしかなかったものが、照射しながら結晶育成を行った場合には、針状結晶の成長が確認された。 また、基礎物性として磁気的特性は知られておらず、磁性測定を試みた。磁化測定はこの結晶を集めた多結晶体(非配向)試料として測定を行った。Coを含むセレン酸化物では、磁化率の温度依存性に7K付近で反強磁性的なピークを示す結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
20年度の進捗状況に於いて、遅延が生じていると考えられる。本年度は研究拠点の異動が複数回有り、異動準備のための中断や研究再開の環境整備により、研究進捗が滞る状態が生じた。次年度に光水熱合成炉の装置開発を目的とし、卓上・小型化を行った結果、小型化した光水熱合成炉を用いて既存物質の単結晶育成を行い、光の結晶育成に及ぼす影響とその物性測定を20年度の研究目的とした。 次年度に引き続き光水熱合成炉を用いて、光を照射する場合としない場合の結晶成長状態を調査した。次年度の結晶育成結果から、光水熱合成法のテスト物質として選択したCoSeO3・2H2Oでは、約100℃で合成可能であり、単結晶も容易に育成可能である。育成される結晶の形状はサイズの差異は見られるものの、高い再現性が有り、ほぼ全ての結晶に於いて相似形に成長する結果を得られ、結晶成長の制御が可能と思われた。但し、CoSeO3・2H2Oは容易に単結晶の育成が可能である事から、光を照射しない場合でも単結晶が得られている。そこで合成条件が報告されているアルカリ土類金属Ba含むセレン酸化物BaM2(SeO3)3・3(H2O)に注目した。この系はMサイトがハニカム格子を組み、Mには遷移金属Mn, Co, Ni等入る事が知られている。この系でアルカリ土類金属サイトA=(Sr, Ba)を置換したAM2(SeO3)3・3(H2O)の合成を行った。光を照射せずに育成を行った場合ではCoを含むセレン酸化物で、粉末又は球状成長でしかなかったものが、照射しながら結晶育成を行った場合には、針状結晶の成長が確認された。また、磁気的特性は知られておらず、多結晶体(非配向)試料を用いて磁化率の温度依存性の測定を行った。BaCo2(SeO3)3・3(H2O)では、磁化率に7K付近で反強磁性的なピークを示す結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
計画の進捗状況に於いて、遅延が生じていると考えられる。この為、来年度の推進方策は、基本的に申請書に記述した20年度の方針に則った研究活動を実践する予定である。 最終年度は前年度までに開発を行った光水熱合成炉でアルカリ土類金属含有セレン化遷移金属酸化物の良質な単結晶が、配向育成可能な事を示す。 本研究の目標は、量子スピン液体状態を示すモデル物質であるBa3CuSb2O9の特徴を備えた、周辺物質の合成を目指す事である。量子スピン液体状態はハニカム格子を形成するCuイオンがCuO6八面体を持ち、CuO6が短時間で局所的にヤーン・テラー効果(歪)の生成と消滅を繰り返している動的な状態とされている。また、ハニカム格子が歪んだ場合、スピン軌道秩序状態になると報告されている事から、ハニカム格子(構造的特性)とヤーン・テラー効果(スピン-軌道の相関)に注目し、ハニカム格子の直径及び連続性、ヤーン・テラー効果の強弱に違いを持たせた新規物質の合成を行う。 ハニカム格子に注目した場合、本研究で注目したBaM2(SeO3)3・3(H2O)は構造的特徴として遷移金属サイトM=(Mn, Co, Ni)がハニカム格子を組むことが知られている。ハニカム格子以外に、ハニカム格子に三角格子を組み込んだ構造を持つ物質Cu5(VO4)2(OH)4やRbMn3Ge2O9等が合成の候補になり、ハニカム格子の直径や層間距離を決めるVO4やRbの置換を行う。スピン-軌道間の相互作用に注目した場合、酸素八面体構造でヤーン・テラー効果を高い確率で起こす高スピン状態のMn3+、Cu2+やAg2+等、逆に低い確率で起こす高スピン状態のV3+、Co2+やMo2+等があり、Na3Cu2SbO6やK2Mn3CO3(VO4)2のハニカム格子上で遷移金属サイト(Cu2+やMn2+)の置換を行う。
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Causes of Carryover |
理由:20年度で購入した品目の内、直流安定化電源等は、本研究を遂行するに際し専用の装置とするため、他の研究との混同を避けるために必要な機器であり予算を割り当てた。昨年度に研究計画を一部変更し、合成炉の小型化を行うため熱浴をマントルヒーターに変更した。その為マントルヒーターと温度調整器、架台等の周辺機器の購入を行った。また研究課題遂行に必須の試薬の購入を行っており、予算の使用については妥当であると考えられる。また、成果報告の一環として物理学会で報告を行った。 但し、本年度は研究拠点の異動が複数回重なり、予算執行の修正が必要であった。研究環境の変化・整備を補うため、一部共同施設の利用や消耗品の追加購入を行った他、異動による研究遅延の期間が生じたため次年度に繰越金を割り当てた。 使用計画:翌年度計画では、結晶育成条件の最適化を目標の1つに含めており試薬の購入等を計画している。また、不純物の混入を防ぐ為、水熱合成炉のテフロン容器の購入や、光源として可視光領域の光を試験的に試みる予定である。 その他、国際会議に割り当てを予定していた旅費を会議のオンライン化に伴い、光水熱合成炉の増設に充当する等を予定している。
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Research Products
(4 results)