2019 Fiscal Year Research-status Report
Study of electronic structure in heavy fermion Ce compounds through Compton scattering experiment
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18K03523
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
小泉 昭久 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (00244682)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 重い電子 / セリウム化合物 / 放射光 / コンプトン散乱 / 電子運動量密度 / 電子占有数密度 |
Outline of Annual Research Achievements |
希土類元素を含む金属間化合物には「重い電子」状態を示すものが多く発見されており、強相関電子系の大きな研究分野を形成している。希土類の4f 電子は、高温では局在的であるが、低温において伝導電子との混成を通じて遍歴性を獲得する。このとき、伝導電子の有効質量が、自由電子に比べて非常に大きくなることから重い電子系と呼ばれている。 本研究では、Ce 系重い電子化合物である CeIn3 および CeIn3 を TIn2 (T = Co, Rh) で挟んだ構造をもつ擬二次元系層状物質 CeTIn5 を対象試料として、これらの系が示す「f 電子の遍歴⇔局在」、「磁性⇔非磁性」、「重い電子状態⇔超伝導」の変化に伴う電子構造の移り変わりを明らかにすることを目的とする。 採択後の2年間で、今後の実験結果と比較するうえで、基礎的なデータを与えるものと考えられるCeIn3 試料で、4f電子の局在状態、遍歴状態、及び反強磁性状態におけるコンプトン散乱二次元再構成測定を行い、更に、擬二次元系層状物質の一つであるCeRhIn5について、局在状態と考えられる室温と遍歴状態と考えられる5Kで、同様の放射光実験を行っている。これら実験データに対して、それぞれ、二次元再構成解析により運動量密度分布を求め、更に、この運動量密度分布にLock-Crisp-West法による解析を適用することにより電子占有数密度を導出した。これらは、観測面に射影された二次元の電子構造ではあるが、フェルミ面構造の変化を反映しているものと考えられる。 一方で、実験結果との比較を行うため、上記の各電子状態に対応する条件のもとにバンド計算を行い、その結果から理論的な電子占有数密度も導出している。CeIn3とCeRhIn5の実験結果の比較、および、理論計算との比較を通じ、電子状態の変遷に対する4f電子の寄与について検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究課題の全体的構想としては、Ce 系重い電子化合物(CeIn3、CeTIn5 (T = Co, Rh))が示す「f 電子の遍歴⇔局在」、「磁性⇔非磁性」、「重い電子状態⇔超伝導」の変化に伴う電子構造の移り変わりを明らかにすることを目的としている。 初年度には、今後の実験結果と比較するうえで、基礎的なデータを与えるものと考えられるCeIn3 において、4f電子の局在状態と考えられる室温と遍歴状態と考えられる低温(20K)で、放射光によるコンプトン散乱二次元再構成測定を行った。 本年度には、引き続きCeIn3を対象に、更に低温の反強磁性相(7K)と、参照物質として4f電子を持たないLaIn3について、コンプトン散乱二次元再構成測定を行った。また、擬二次元系層状物質の一つであるCeRhIn5について、局在状態と考えられる室温と遍歴状態と考えられる5Kで、同様の放射光実験を行った。今本年度の測定では、10K以下の低温における反強磁性状態や遍歴状態を調べるために、新しく導入された試料用冷凍器を利用した。10K以下の低温において、コンプトン散乱測定を行うことが可能になったことは、これ以降の研究計画の遂行にとって大きな進展と言える。特に、今年度の測定で、この試料用冷凍器の使用上の問題点も明らかにできたので、次年度以降の改善にも役立つものと考えられ、CeCoIn5における超伝導状態の測定にあたっての目途が立った。 これまでに得られた測定データについては、二次元再構成解析により運動量密度分布を求め、更にLCW解析により電子占有数密度を得ている。これらの実験結果を比較するとともに、各電子状態に対応するバンド計算から導出された理論的な電子占有数密度とも比較を行い、論文執筆へ向けての検討を行っているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題の遂行においても放射光を用いた実験を行うため、既に、SPring-8の2020A期に対する課題申請を行い、採択を得ている。この実験では、引き続きCeRhIn5 の反強磁性相について、コンプトン散乱の二次元再構成測定を行う予定である。前回の実験で、新しい試料用冷凍器の問題点が明らかになったので、その改善を施す予定である。具体的には、試料回りのシュラウドの外形を大きくする。これにより、シュラウドによるバックグラウンド散乱が低減されるものと期待される。また、冷凍器の操作上の改善により、設定温度の安定化や、到達最低温度の向上を図る。その上で、CeCoIn5試料の電子構造、特に、超伝導状態の測定に進めていきたい。 一方で、コロナ感染拡大防止のため、一時的に放射光施設の利用ができない事態が起こり得る。実際に、2020A期では、多数の実験課題が秋以降に延期されている。幸いにも、自身の実験課題は、施設再開後に実施可能となったので、実験計画に沿って実験を行う予定である。ただし、2020B期の課題募集は行われないため、予定していた測定ができるか否か、現時点では不透明である。もし、実施できなければ、次年度以降に繰り下げるしかない。
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Research Products
(3 results)