2021 Fiscal Year Research-status Report
固体物質系と光格子量子シミュレータを繋ぐ新奇フラストレート量子物性の理論研究
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18K03525
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山本 大輔 日本大学, 文理学部, 准教授 (80603505)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フラストレーション / 磁性体 / 量子シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
磁性体などの固体物質の性質は、主に自然界の化学合成のルールに従った組成(結晶構造やスピン量子数など)によって決定する。したがって新奇な機能を持つ物質を作成するためには、経験的な指導原理の下で偶発的に良い組み合わせを探し出す必要がある。一方で強磁場や圧力の印加は、既存の固体物質の性質を能動的に変化させる数少ない外的な手段である。特に、多数の異なる磁気状態がエネルギー的に準縮退しているフラストレート磁性体では、磁気基底状態の選択に対する磁場や圧力の影響が相対的に大きくなる。 フラストレート磁性の典型例である三角格子反強磁性体では、分子場解析において磁化過程に非自明な無限縮退が現れてしまうため、古典的な計算では低温磁気状態が一意に決定できない。したがって、小さな量子揺らぎや異方性が状態決定に本質的に重要な役割を果たし、その結果として磁化の値が飽和値の1/3に量子化された「磁化プラトー」や、強磁場・異方性・量子揺らぎの3者の協奏によって生まれる「Ψ(π-coplanar)状態」などの非自明な磁気相が現れる。 本研究では、圧力の印加によるフラストレート磁性体の量子性の制御の可能性について議論した。磁性体を構成する磁性イオンのスピン量子数Sは、その物質の量子性の強さに直結する量である。我々は、神戸大学分子フォトサイエンス研究センターにおける結合スピン鎖三角格子反強磁性体CsCuCl3に対する圧力下磁気測定実験と、理論解析による磁気パラメータフィッティングおよび有効2次元模型によるマッピングを行い、スピン量子数Sを圧力によって実効的に制御できる可能性を示した。このことは、結合スピン鎖物質への圧力印加によって、2次元フラストレートスピン模型の物理を量子性の能動的な制御下でシミュレートできるという画期的なアイデアをもたらす。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初研究計画では、5年の研究期間をかけて固体物質系の研究と光格子人工系の研究を相補的に行いながら、その知見をもとにフラストレーションの新たなシミュレーション方法を模索する計画だった。研究は予定よりも概して早く進み、「光格子系にフラストレーションを実装するための負温度を用いたプロトコルの提案」や本年度達成した「結合スピン鎖物質に対する圧力による磁気パラメータ制御」などの顕著な結果をすでに得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度新たに得た結合スピン鎖三角格子反強磁性体CsCuCl3に対する圧力による量子性の制御の知見をもとに、より一般の結合スピン鎖物質に解析を拡張する。また、神戸大分子フォトサイセンスセンターなどの実験グループとの連携も強化し、圧力に対する磁気相転移温度の解析やESR測定結果との比較などにより、より詳細な磁気構造同定を行う。また、光格子人工系でのフラストレート多体系の量子シミュレーションに関しても、理研RQCの実験グループなどとの連携を強化することで、本科研費研究ですでに提案した実験プロトコルを現実化し、固体物質系と光格子人工系を跨いだ新たな視点での物理の理解を目指す。
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Research Products
(8 results)