2018 Fiscal Year Research-status Report
時間反転対称性の破れたRashba電子系における非線形光学応答の理論的解析
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18K03527
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
柴田 絢也 東洋大学, 理工学部, 教授 (20391972)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | バルクラシュバ電子系 / 光学的電気伝導度 / 頂点補正 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は, 空間反転対称性は破れている(非磁性)バルクラシュバ電子系の線形応答領域における光学的電気伝導度の解析を重点的に行った。先ず、線形応答理論に基づき、光学的電気伝導度をグリーン関数によって表し、有限の振動数領域でこれを解析した。このような計算は直流極限(振動数をゼロに近づける)においては、これまでよく知られているのであるが、有限の振動数領域をそのまま計算することはあまり考察されていない。評価する式の中には、遅延グリーン関数と先進グリーン関数の差があり、特に不純物のないクリーン極限では、その量はデルタ関数に置き換えることができ、比較的容易に積分が実行できる。しかしながら、今回の計算ではこの方法を安易に利用すると、得られた量が直流極限で発散してしまう問題が生じた。この問題を回避する為には、光学的伝導度に現れる全てのグリーン関数の積の組をクリーン極限をとることなく取り扱う必要があり、計算にかなりの時間を費やした。 次に、不純物の影響を考慮する為に、光学的電気伝導度に対して頂点補正を行った。通常の自由電子モデルにおいては、一様な電場に対する電気伝導度に対して頂点補正は効かないのであるが、Rashba電子系については運動量依存スピン軌道相互作用に起因する電流項の存在のため、系が一様な状況においても、頂点補正が有限の寄与を与える可能性がある。これについては、先行研究ですでに直流極限についての先行研究があるので、それを基に、有限振動数領域まで拡張を行った。結果は、振動数がフェルミエネルギーに比べて比較的大きい時には、頂点補正はほとんど効かないが、低振動数領域においては、補正はオーダ1で効いてくるという結果を得た。もちろん、直流極限においては先行研究と一致する。 今後は、上記の研究をまとめてから非線形応答領域の研究を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、研究初年度であり、当初予定していた非線形応答の解析の前に、これまでよくやられている線形応答領域の解析を再構成しておこうと計算を進めた。しかしながら、これまでの結果を有限の振動数領域まで拡張しようとすると、計算が非常に複雑になるので、先ず、その構造を明らかにするために、最も基本的な自由電子モデルまで遡って計算を進めた。またRashba電子系においては, フェルミエネルギーとスピン軌道相互作用に起因するエネルギーとの大小関係によって, 状態密度が本質的に変化する。これも計算量が増えた要因である。これらは研究計画当初、想定していなかったことで、多くの時間が費やされた。これが進捗状況がやや遅れている理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
先ず、研究初年度で得られた結果を論文としてまとめ、今後は、初年度で得られた結果を基に、計算を非線形応答領域まで拡張していく。先ず、電場に関して二次の効果である、逆ファラデー効果(電場により直流のスピン分極が現れる効果)の解析から始める。先行研究を参考にしながら、また、頂点補正の影響も考慮に入れて解析を行っていく。次に、ラシュバ電子系における第二次高調波発生に関する理論的解析を遂行していく。二次元ラシュバ電子系においては、空間反転対称性が破れているのにも関わらず第二高調波が発生しない、また、それが発生するためには時間反転対称性も破らなければならないという結果が、これまでの先行研究によって得られている。したがって、これらの先行研究を念頭に置きながら、バルクラシュバ電子系における非線形光学応答の理論的解析を遂行していく。
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Causes of Carryover |
差額は4594円と少額であり、初年度の予算執行はほぼ計画通りであるので、今後も計画通りに予算を執行する予定である。
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