2019 Fiscal Year Research-status Report
Valence-skip mechanism of superconductivity in doped Dirac electron system
Project/Area Number |
18K03540
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
小林 夏野 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (60424090)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 超伝導 / ディラック電子系 / バレンススキップ超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
超伝導転移を示す多結晶AgSnSe2試料を用いたSe, Snの核磁気共鳴(NMR)実験を行い、Snの価数が3+の一つのみであることを示した。これは、以前のX線光電子分光(XPS)の実験で観測された超伝導試料においてSnの価数が2+と4+の2種類が共存するとの結果と異なる振る舞いである。また、第一原理計算で安定な結晶構造を求めたところ、Sn, Se間の結合に関して異なる距離が生じるような振る舞いは見られなかった。 XPSとNMRの2つの実験結果によって、異なるSnの価数が見られたのは、これまでの電荷秩序とそのブレイクダウンによる超伝導の発現という描像が対象物質のAgSnSe2においては成り立たないことを示す。実際、これまでバレンススキップ超伝導体として提案された物質の親物質で観測されたような空間的に分布する電荷秩序はAgSnSe2とその関連物質においては定常状態としては全く現れない。この電荷秩序の不在と既存バレンススキップ超伝導描像の破たんはAgSnSe2が他のバレンススキップ超伝導候補物質と異なる超伝導発現機構を有する可能性を示唆している。今回得られたNMRと第一原理計算の結果がXPSで明確な2つの異なる価数が観測された結果と相反する結果を示した理由として考えられるのは電子状態が動的に揺らいだ状態にある可能性である。これらの結果を合わせて考えると、対象物質AgSnSe2はバレンススキップ超伝導発現機構を明らかにする良い舞台であることを示す。このような電子状態を明らかにするために、今後単結晶の合成とその電子状態の解明を進めていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Sn, SeにおけるNMR実験から、Sn3+の価数であること、また異方的な超伝導などの振る舞いが見られないことがわかった。これらの結果は、対象物質のAgSnSe2がこれまで議論されてきたバレンススキップ超伝導候補物質とは異なることを示す。XPS実験で観測されたSn2+, Sn4+共存状態と合わせて考えると、バレンススキップ超伝導発現機構はこれまで考えられているような結晶格子とカップリングした機構と異なる可能性を強く示唆している。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在得られている単結晶を用いた電子構造の観測を目指す。また、より大型の単結晶合成法の確立を行う。
|