2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of a highly-sensitive synchrotron Mossbauer diffractometer and its application to measure a crystal-site-selective spectrum
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18K03549
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
中村 真一 帝京大学, 理工学部, 准教授 (80217851)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下村 晋 京都産業大学, 理学部, 教授 (00260216)
三井 隆也 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 上席研究員(定常) (20354988)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 放射光メスバウアー回折 / 核共鳴散乱 / 結晶サイト選択性 / 高感度化 / 自然鉄試料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究グループでは,大型高輝度放射光施設SPring-8 BL11XUにおいて放射光メスバウアー回折装置を開発し,核共鳴散乱により典型的な鉄複サイト化合物Fe3O4及びFe3BO6を用いて結晶サイト選択的スペクトルの測定に成功した。しかしながら,いずれも 57Feエンリッチ試料を用いたものであり,多額の費用を要する問題がある。本研究では,装置を高感度化して自然鉄試料でも結晶サイト選択的スペクトルの測定可能とすることが目的である。このために,新たに3つの改良,バックグラウンドノイズの低減,チョッパー・ロックインアンプシステムの導入,及び,シリコンドリフト検出器の導入を行い,検出感度を現状の数十倍向上させることを計画している。本年度は2度のマシンタイムを得て装置の高感度化に取り組み,自然鉄試料での結晶サイト選択的スペクトル測定を試みた。 装置の高感度化に最も有効だったのは,バックグラウンドノイズの極限までの低減化である。各所の遮蔽とSCAによるノイズカット等により,ノイズを従来の数十分の一まで低減化した(0.1-0.5 cps)。まず,自然鉄α-Fe2O3単結晶の禁制111反射による純核ブラッグ散乱の測定を試みた。その結果,自然鉄試料での純核ブラッグ散乱の観測に,世界で初めて成功した。111反射γ線を用いた核共鳴発光スペクトルも得ることができた。ついで,自然鉄Fe3BO6単結晶の禁制反射,300,500,及び700反射を用いた純核ブラッグ散乱法による核共鳴発光スペクトルの測定にも成功した。また,自然鉄Fe3O4単結晶の45度法による測定も試み,ブラッグ角が46.4°の10 10 0反射では核共鳴発光スペクトルを得ることができた。これらの結果は,放射光メスバウアー回折により,自然鉄試料でもサイト選択的スペクトルの測定が可能となったことを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の実施計画は,放射光メスバウアー回折装置の高感度化を行い,自然鉄試料でサイト選択的スペクトルの測定が可能とすることであった。バックグラウンドノイズの極限までの低減化により,自然鉄α-Fe2O3単結晶の禁制111反射による純核ブラッグ散乱の測定に,世界で初めて成功した。111反射γ線を用いた核共鳴発光スペクトルも得ることができた。ついで,自然鉄Fe3BO6単結晶の禁制反射,300,500,及び700反射を用いて純核ブラッグ散乱法により核共鳴発光スペクトルの測定にも成功した。センターシフトのずれ,高次の干渉効果による3-4ライン強度の弱まり,2サイト間の弱い干渉効果など動的回折効果の影響が見られたが,強度比が構造因子の2乗に比例すること,単サイトでは線形がシャープかつローレンツ型であることは,動的回折効果から免れている。これらの結果から,自然鉄試料でも,純核ブラッグ散乱法を用いたサイト選択スペクトル測定が確立できたと言える。 一方で, 自然鉄Fe3O4単結晶の45度法による予備的測定では,ブラッグ角がかなり45度に近い反射でないと有効ではないことも分かってきた。しかしながら,外部磁場を印加した測定によって,新たに,四重極相互作用が関係した純核ブラッグ散乱を利用して,サイト選択的スペクトルを得る可能性が現れ,今後の展開が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
大型高輝度放射光施設SPring-8 BL11XUにおいて,2020年度上半期,及び下半期の計2度のマシンタイムに合わせて,2020年度を計画する。 (1)2020年度上半期マシンタイム:新たに,四重極相互作用が関係した純核ブラッグ散乱の測定を試みる。この方法では,Feが結晶学的に等価の位置にあっても,四重極相互作用によって非等価なスペクトルが現れる場合には,禁制反射を用いて純核ブラッグ散乱が観測されることを利用するものであり,フェリ磁性体などでも広く適用できる可能性がある。1例として,Fe3O4のBサイト位置がこの状況に相当する。自然鉄単結晶試料を用いて,外部磁場を印加して散乱面内に磁気モーメントを揃える。この時,電場勾配主軸と磁気モーメントの角度の違いにより結晶学的に等価な16個のBサイトFeは2種類に分裂するので,γ線回折で超格子反射を生じることになる。適当な禁制反射を用いれば,純核ブラッグ散乱が観測される。その回折γ線を用いて,Bサイトのみのスペクトルの測定を行う。45度法と組み合わせて,サイト選択的スペクトルの測定を行う。 (2)2020年度下半期マシンタイム:マルチフェロイック酸化物Ba2Mg2Fe12O22の18hサイトについても,四重極相互作用が関係した純核ブラッグ散乱が適用できる可能性がある。c面内に外部磁場を印加して,電場勾配主軸と磁気モーメントの角度の違いによりγ線回折での超格子反射を生じさせる。同様の手法は,鉄の2価3価が電荷秩序配列した物質であるLuFe2O4などにも,適用できる可能性がある。核共鳴散乱の構造因子を計算し,測定可能な反射の目星を付けた後に,測定を試みる。
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Causes of Carryover |
当初導入を予定していたシリコンドリフト検出器の購入を取りやめた。これは,分担研究者・下村が所有する同等品で予備的な測定を行なった結果,γ線に対する検出感度が想定よりも低いこと,及び,受光部面積が小さく光学的配置が容易でないことが分かり,一方で,バックグラウンドノイズの極限までの低減化により目的の感度が得られたためである。その代わりとして,回折計周りの増強用としての小型ゴニオメーター(小型回転ステージ)と電気処理系としてディレイ回路を購入した。当初予定とこれらの物品購入額との差額で余剰金が生じた。 次年度には,少額の機器の購入,結晶構造ソフトウェアの更新費用,旅費などに充当する予定である。
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Remarks |
その他の研究発表 中村真一,黒葛真行,藤原孝将,高感度放射光メスバウアー回折装置の開発,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業・微細構造解析プラットフォーム利用報告書(量子科学技術研究開発機構)平成30年度,A-18-QS-0023, (2019).
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Research Products
(4 results)