2019 Fiscal Year Research-status Report
磁場中の中性子回折を利用したスピン間に働く交換相互作用の値の決定方法の確立
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18K03551
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
長谷 正司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, グループリーダー (40281654)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 磁場中の中性子回折 / 磁場誘起磁気モーメント / スピン / 交換相互作用 / 常磁性状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目標は、スピン間に働く交換相互作用の値を、汎用的に、簡便に、正確に決定する方法の確立である。本研究で提案する方法では、磁気秩序がない常磁性状態で、磁場中の中性子回折を利用することで、サイト毎の磁場誘起磁気モーメントの値を調べ、交換相互作用の符号や大小の情報を得る。その情報を踏まえた上で、磁化や比熱などの実験結果と計算結果を比較して、より正確に交換相互作用の値を決定する。 2019年度は、Ni2V2O7の磁場中の中性子回折実験を行った。この物質では、TN1 = 6.7 KとTN2 = 5.7 Kで磁気転移が起こるが、磁気構造は分かっていない。2 Kでは8から30 Tの間で1/2量子磁化プラトー(一種の常磁性状態)が見られる。2種類のNi2+サイト(Ni1とNi2)が存在する。スピンの値は1である。3種類の短いNi-Ni対が存在し、それらの反強磁交換相互作用をJ1, J2, J3.と表すことにする。交換相互作用の値については以下の3組の報告例があり、結論が出ていない。J1 = 33.5 K, J2 = 37.4 K, J3 = 470 K (モデル1)、J1 = 1.8 K, J2 = 6.0 K, J3 = 161 K (モデル2)、J1 = 9 K, J2 = 38 K, J3 = 17 K (モデル3)。 ゼロ磁場の1.8 Kで磁気反射を観測した。磁気反射の位置から、結晶格子とは非整合な磁気構造が現れると考えられる。1/2量子磁化プラトーが存在する10 Tの磁場の1.8 Kで、磁場誘起磁気モーメントが作る磁気反射を観測した。磁化プラトーに至る前の磁場においても、異なる一連の磁気反射を観測した。その指数は整数で、ゼロ磁場とは異なる磁気構造が磁場中で発現していることを意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度に投稿したK2Cu3O(SO4)3の論文はJ. Phys. Soc. Jpn.誌に出版された。2019年度に投稿したCu3(P2O6OD)2の論文はPhys. Rev. B誌に投稿中で、近日中に出版されると思われる。Ni2V2O7の磁場中の中性子回折実験も行えた。
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Strategy for Future Research Activity |
Ni2V2O7の磁場中の中性子回折の追加実験を行う。TN1 = 6.7 KとTN2 = 5.7 Kの間に現れる磁気構造と磁場・温度相図を決めるための実験結果が得られていないからである。2019年度に得られた実験結果と合わせて、以下のことを決める。①ゼロ磁場のTN2 = 5.7 K以下と、TN1 = 6.7 KとTN2 = 5.7 Kの間の磁気構造。交換相互作用の符号の情報が得られる。②有限磁場中に現れる磁気構造。③磁場・温度相図。④10 Tの1.8 KでのNi1とNi2サイトの磁場誘起磁気モーメントの大きさ(M1とM2)。例えば、モデル1または2が正しければ、J3相互作用で形成される反強磁性ダイマーのため、M1は小さく、孤立スピンに近いので、M2は大きいと期待される。一方、モデル3が正しければ、J2とJ3相互作用で形成される反強磁性テトラマーのため、M1とM2は近いと期待される。帯磁率や磁化曲線の結果だけでなく、M1とM2の値も考慮することで、交換相互作用の値をより正確に決めることを目指す。 関連研究として、遍歴電子強磁性物質LaCo9Si4の磁場中の中性子回折実験も行う。この物質はゼロ磁場では強磁性秩序を示さないが、強磁性の量子臨界点近傍に位置すると考えられている。数テスラの磁場を印加すると、遍歴電子メタ磁性転移(磁場誘起強磁性状態への相転移)が現れる。3種類の結晶学的なCoサイト(16k、16l、4d)が存在するが、16kサイトが主として遍歴電子メタ磁性転移を担っていると、NMRと電子構造計算の結果から考えられている。磁場中の中性子回折実験を行い、各Coサイトの磁場誘起磁気モーメントの大きさを決めることで、この描像が正しいかどうかを確認する。
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Causes of Carryover |
(理由)オーストラリアANSTOへの外国旅費の一部を東大物性研から支給されたためと、2020年3月の名古屋大学での日本物理学会が中止になったためである。 (使用計画)消耗品費94千円、外国旅費(2回)600千円、国内旅費(1回)90千円、人件費(週1回)580千円
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