2018 Fiscal Year Research-status Report
Nonequilibrium dynamics of micromachines in soft matter
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18K03567
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
好村 滋行 首都大学東京, 理学研究科, 准教授 (90234715)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マイクロマシン / ソフトマター / マイクロスイマー / マイクロレオロジー / ラチェット |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度には、高分子ゲルや高分子溶液に代表される構造流体中のマイクロスイマーの遊泳機構について理論的に考察した。具体的には、構造流体中の剛体球の抵抗係数を三つ玉スイマーに適用することで、スイマーの遊泳速度と剛体球の抵抗係数を結びつける一般的な関係式を導出した。この関係式によると、三つ玉スイマーが構造流体中で運動するには、二つのアームの周期運動が位相差をもつように時間反転対称性を破るか(粘性的機構)、もしくは二つのアームの振幅が異なるように構造対称性を破ること(弾性的機構)が必要となる。特に後者の弾性的な遊泳機構は新しい発見であり、構造流体中の三つ玉スイマーは、たとえそのアーム運動の時間反転対称性が保持されていても、アーム運動の振幅が異なれば、構造流体中を遊泳可能であることが理論的に示された。 構造流体の特徴は物質中に空間的な不均一性が存在することであり、その不均一性はミクロとマクロの中間的な長さによって特徴付けられる。そのため、マイクロスイマー自身のサイズと構造流体の特徴的な長さの大小関係に応じて、異なる遊泳挙動が見られることが予想される。我々は、構造流体の代表例として高分子ゲルを取り上げ、その中での三つ玉スイマーの遊泳挙動を詳細に調べた。高分子ゲルの運動を理論的に記述するために、de Gennesらによって提唱された「二流体モデル」という数理モデルを用いた。その結果、スイマー自身のサイズがゲルの網目サイズよりも十分大きい場合と小さい場合については、遊泳速度の具体的な数式表現が得られた。遊泳速度の周波数依存性が変化する特徴的な周波数は、高分子ゲルの網目サイズに強く依存することがわかり、そこに構造流体の性質が反映される。また、遊泳速度が剛体球の大きさに比例しない場合もあり、これは均一な流体では決して見られない効果になっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、生体中の非平衡ゆらぎの定量的な理解を目的として、ソフトマター中のマイクロマシンが示す自律的遊泳や能動輸送などの非平衡ダイナミクスの理論を、ソフトマター物理学や非平衡物理学に立脚して確立することを目指している。具体的には、(1)二流体モデル中のマイクロマシンの遊泳挙動、(2)熱的に駆動されるマイクロマシン、(3)ソフトマター中の二つ球マイクロマシンの集団運動、などの課題に取り組むことになっている。最終的には、ソフトマター中のマイクロマシンの非平衡ダイナミクスの理解を通じて、細胞中の酵素やタンパク質の非平衡性を定量的に記述するための理論を構築すると同時に、非平衡統計力学の基礎理論の拡充を図る予定である。 上記の研究実績の概要で述べたように、我々は(1)の目標を初年度において達成し、この研究成果はすでにEPL誌に掲載されている。さらに、二次元流体中のマイクロマシンの遊泳に関する解析も行い、すでにPRE誌に発表した。現在は研究の中心を(2)に移している段階である。そのため、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、特に分子の内部自由度の非平衡性に着目して、弾性的なマイクロマシンが、熱運動のみによって方向性のある運動を獲得できるかという問題を検討する。ここで三つの球はそれぞれ異なる温度の熱浴と接しており、異なる球の間には熱流が生じる。そのため、我々の問いを言い換えると、分子内の熱流によってマイクロマシンは原理的に遊泳可能かということになる。この問題設定は温度勾配中の熱拡散と関係する一方、熱ゆらぎから運動を獲得するという意味において、ブラウン・ラチェットのアイディアとも密接に関連している。 熱的に駆動される三つ玉マイクロマシンの運動は、各球に対するランジュバン方程式で記述する。各球に働くノイズの強さは、各球の温度に応じた揺動散逸定理で与えられるものとする。異なる温度の球に働くノイズ間の相互相関関数を求めることは、非平衡統計力学の本質的な問題であり、正しい実効的温度の導出を検討する。予備的な計算によると、バネの自然長が球のサイズに対して十分に大きい場合には、実効的温度の問題を回避することが可能である。
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Causes of Carryover |
平成30年度は主に解析的な計算を行ったため、ワークステーションなどの計算機は購入しなかった。次年度は解析的な結果の検証のために大規模な数値計算を行うため、ワークステーションを購入する予定である。そのため、次年度の予算と合算して、より高性能の計算機を購入する計画になっている。
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Research Products
(15 results)