2019 Fiscal Year Research-status Report
Nonequilibrium dynamics of micromachines in soft matter
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18K03567
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
好村 滋行 首都大学東京, 理学研究科, 准教授 (90234715)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マイクロマシン / ソフトマター / マイクロスイマー / マイクロレオロジー / ラチェット |
Outline of Annual Research Achievements |
マイクロマシンとは、ATPなどの物質から化学反応によってエネルギーを取り出し、その構造を変化させることによって機能を発現する微小運動体の総称である。細胞中の酵素やモータータンパク質などは典型的な生体ナノマシンであり、その基本的な動作原理は物理学や生物物理学の重要な研究対象である。 令和元年度には、主に熱的に駆動される生体ナノマシンの運動機構の解明に関する研究をさらに発展させた。具体的には、以前に提案した三つ玉弾性スイマーを用いて、三つの球がそれぞれ異なる温度の熱浴と接している状況を扱った。我々は、異なる温度の三つ玉に対するランジュバン方程式から出発して、二つの隣接粒子間距離に対する非平衡ボルツマン分布を導出した。次に対応するフォッカー・プランク方程式を用いて、異なる状態間の遷移確率の流束を解析的に導出した。三つ玉の温度が等しい熱平衡状態では正味の確率流束は存在しないが、温度が異なる非平衡定常状態では有限の確率流束が存在することが示された。また、熱的に駆動されるマイクロマシンの速度は、構造空間中の面積と周波数行列の固有値の積によって表されることがわかった。 また、二つの三つ玉弾性マイクロスイマー間に働く流体力学的相互作用についても解析的な計算を行った。その結果、二つのマイクロスイマー間の相互作用は距離の3乗に逆比例して、二つのマイクロスイマー間の位相差に応じて、相互作用は引力的になる場合と斥力的になる場合があることがわかった。 さらに、令和元年度には新しい問題にも取り組み、生体ナノマシンの状態サイクルに注目した粗視化モデルを考案し、状態サイクルと化学反応のパラメーターの関係性を調べた。我々はこのモデルを通じて、生体ナノマシンの非平衡度を特徴付ける「状態サイクロン」という新しい物理量を考案することに成功した。また考案されたモデルを用いて、確率的な数値シミュレーションも実行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、生体中の非平衡ゆらぎの定量的な理解を目的として、ソフトマター中のマイクロマシンが示す自律的遊泳や能動輸送などの非平衡ダイナミクスの理論を、ソフトマター物理学や非平衡物理学に立脚して確立することを目指している。具体的には、(1)二流体モデル中のマイクロマシンの遊泳挙動、(2)熱的に駆動されるマイクロマシン、(3)ソフトマター中の二つ球マイクロマシンの集団運動、などの課題に取り組むことになっている。最終的には、ソフトマター中のマイクロマシンの非平衡ダイナミクスの理解を通じて、細胞中の酵素やタンパク質の非平衡性を定量的に記述するための理論を構築すると同時に、非平衡統計力学の基礎理論の拡充を図る予定である。 上記の研究実績の概要で述べたように、我々は(1)の目標を初年度において達成し、この研究成果はすでにEPL誌に掲載した。また、(2)の目標に対しても、熱的に駆動されるマイクロマシンの遊泳速度の非平衡統計力学的な解釈に成功している。この研究成果については、Phys. Rev. E誌にすでに発表した。また、(3)についても二つの弾性マイクロスイマー間に働く流体力学的相互作用を明らかにして、その研究成果をJ. Phys. Soc. Jpn誌に発表したところである。また、新しい研究成果として、酵素溶液のずり粘性率に関する研究成果をPhys. Rev. E誌に発表した。これらの研究成果の蓄積により、研究はおおむねに計画通りに順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は熱的に駆動される弾性マイクロスイマーの非平衡挙動について、より詳細な解析を行う予定である。具体的には、弾性マイクロスイマーのエントロピー生成率を計算する。不可逆的なエントロピー生成率は非平衡熱力学において熱力学的力と不可逆流れの積で表される。また、非平衡定常状態では系に蓄積されるエントロピー生成率と外部環境へのエントロピー散逸率は等しい。非平衡定常系におけるエントロピー生成率は、順方向トラジェクトリの分布と逆方向トラジェクトリの分布の比で定義される平均不可逆度の時間微分で求められる。我々はエントロピー生成率の温度依存性を解析的に求める予定である。さらに、熱的に駆動されるマイクロマシンの重心座標の拡散係数の計算を行う。これらの結果を用いてマイクロマシンのエネルギー効率を求めることを本研究の最終目標とする。
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Causes of Carryover |
令和元年度は主に解析的な手法で計算を進めたため、最新のワークステーションで数値計算を行う必要がなかった。最終年度の初めに、最新のワークステーションを購入して、大規模な数値計算を行う予定である。そのために、ワークステーションの購入を最終年度に遅らせることにした。このことによる全体としての研究の遅れはない。 また、2020年3月に名古屋大学で開催される予定であった日本物理学会第75回年次大会が現地開催中止となったため、研究代表者および大学院生の旅費と宿泊を使うことができなかった。
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