2019 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of microscopic Soret effect utilizing periodic plasmonic heating in mesoscale
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18K03570
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
島田 良子 日本女子大学, 理学部, 教授 (90346049)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | DNA / Soret効果 / プラズモン発熱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、DNAの平均末端間距離と同程度の周期で空間変動する微視的な(分子内の)温度勾配の下でDNAが示す形態変化と空間移動の詳細を実験的に明らかにすることである。2019度(令和元年度)は以下に示すような成果が得られた。 ポリスチレン微粒子(粒径50μm)を用いたNanosphere Lithography法により作製した三角格子状の銀ドメイン配列を用いて、表面プラズモン効果による発熱による温度勾配を発現させた。銀ドメインのエッジ部分が高温部となり、それから離れるに従い温度が低下する勾配が確認された。形成された温度勾配は約0.5K/μm であった。 作製した銀ドメイン配列上に蛍光色素(SYBR Gold)標識したDNA分子(塩基対数165kbp、平均末端間距離~56μm)を7.0wt%のPEG(ポリエチレングリコール)と混合した水溶液を置き、プラズモン発熱により発生した温度勾配下でのDNA分子の形態変化および空間移動の可視化実験を行った。温度勾配下では、DNA分子は銀ドメインのエッジ近傍(温度の高い部分)に近づいていく様子が観察された。この結果から、PEG溶液中のDNA分子は正のSoret効果を示すことを確認した。また、DNA分子は、高温の銀ドメインエッジにとどまり、長いランダムコイル状の分子がドメインエッジに沿って伸縮運動をしていることが観察された。2つの銀ドメインのエッジ間でブリッジ型の形態をとる DNA 分子も観察された。 さらに、高温部からの引力を受ける小球をガウス-バネで繋いだダンベルモデルについて、ブラウン運動のシミュレーションを行った。その結果、温度勾配下では、ダンベルは高温部に局在化され、非フィック型の拡散を示すことがわかった。この結果は、DNA分子の挙動と定性的に一致した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度購入した蛍光顕微鏡を用い、蛍光プローブでラベルされたDNA分子に対する予定の実験計画をおおむね順調にこなすことができた。銀ドメイン配列の表面プラズモン効果による発熱により、DNA 分子の平衡時の平均末端間距離と同程度の空間周期の温度勾配を発現させ、7.0wt%のPEG溶液中のDNA分子は高温部であるドメインエッジに局在化すること(すなわち PEG溶液中のDNA分子は正のSoret効果を示すこと)を確認した。さらに、DNA分子は、ドメインエッジから離れたところでは丸まったコイル状の形態をとるが、エッジ(高温部)に近づくに連れて引き延ばされてエッジに沿った伸縮運動を示すことや、2つの銀ドメインのエッジ間をブリッジする形態のDNA 分子ではこの伸縮が抑制されていることなどを見出した。 このようなDNA分子の運動を理解する目的で、高温部からの引力を受ける小球をガウス-バネで繋いだダンベル-モデルについてブラウン運動シミュレーションを行った。その結果、温度勾配の存在下では、ダンベルは高温部に局在化され、非フィック型の拡散を示すことがわかった。この挙動は、DNA分子の運動と定性的に一致し、DNA の特徴的な形態と運動が熱的揺動力と高温部からの引力の拮抗で決まっていることが推察された。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度は、これまでの実験結果、シミュレーション結果をふまえて、より定量的で詳細な実験・解析を行う。具体的には、銀ドメイン配列の表面プラズモン発熱による周期的温度勾配下に置かれたPEG 溶液中のDNA分子の形態と拡散が、PEG 濃度、温度勾配周期に応じてどのように変化するのかを、実験的に検討する。特に、DNA 分子の平衡時の平均末端間距離Rが温度周期 Lより充分に大きければDNA分子にとって温度場は平滑化され、周期的温度勾配がDNA分子の形態と拡散に与える効果は消失すると予想される。この観点から、実験的に得られる温度勾配下の DNA の末端間距離 Rの分布と拡散係数を、R/L 比に基づいて整理する。 DNA分子の荷電線密度と屈曲性を考慮して周期的温度勾配下のDNA 分子の弾性エネルギー G(R,L) を末端間距離 R と温度勾配周期 L の関数としてモデル化し、実験的に観察される R の分布と拡散係数をGから予想されるR の分布関数 (~exp(G/kT); k はボルツマン定数、Tは絶対温度) と対比することで、DNA 分子の形態と運動に対する温度勾配の効果の発現機構を考察する。さらに、このモデルに基づいて、DNA分子の形態変化を弾性エネルギー変化ΔGに読み替え、ΔGと巨視的なSoret係数の関係を考察する。
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Causes of Carryover |
今年度は主に実験消耗品の購入に充てる予定であったが、実験だけでなくシミュレーションも実施したために、一部次年度へ繰り越すことになった。繰り越し分については、今年度分と合わせて、最終年度の実験において、試薬、光学部品等の消耗品と成果発表のための旅費に充てる予定である。
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