2020 Fiscal Year Research-status Report
フェライト鋼における変態超塑性を応用したSPF技術研究
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18K03585
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Research Institution | National Institute for Fusion Science |
Principal Investigator |
能登 裕之 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (50733739)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 変態超塑性 / 金属加工 / 超塑性成形 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、将来的な変態超塑性型の超塑性成形(SPF)技術を実現するための研究である。超塑性とは、通常の金属・セラミックなどの材料変形では困難な、“低荷重による高延性“を示す特異な変形挙動であり、様々な金属加工に応用可能な現象である。この現象は、一般的に、「微細粒超塑性」と「変態超塑性」に分類することが可能であり、前者はすでに航空宇宙分野で広く超塑性成形(SPF)への展開がなされている。しかし、後者はいまだに工学応用の段階には至っていない。その一方で、申請者の専門分野(核融合工学)では、現在の成型技術の適用によりその特性が失われてしまう新材料が開発されている。そこで、このような新材料の特性を損なうことなく成形するため、これまでSPFに不向きとされ、ほとんど着目されてこなかった変態超塑性に注目した。本課題では、低荷重・高延性による変形という特性をSPFに発展させるための基礎段階を詳細に調査することを目標とした。この目標の達成のためには、「引張(前課題で終了)」「圧縮」「複合変形」の段階が必要であると考えており、2018年度(1年目:平成30年度)~ 2019年度(2年目:令和1年度)までには、「圧縮」段階に必要な熱変動圧縮装置のセットアップを行い、丸形圧縮試験体を用いて熱変動による圧縮試験を実施した。この段階の詳細な調査は現在も進行中である。さらに2020年度(3年目:令和2年度)は、「複合変形」の調査に進んだ。この試験では、従来の微細粒超塑性型SPFを得意とする民間企業の協力のもと、真空炉内で熱変動をかけながらガス内圧により変態超塑性金属を膨張変形させることに成功した。現在は、この膨張変形の機構を詳細に調査しており、新しい金属加工技術への発展に向けた検証をしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況として、当初の計画どおり、2018年度(1年目:平成30年度)には主装置となる熱変動圧縮試験装置および周辺装置の準備、2019年度(2年目:令和1年度)には予備試験、2020年度(3年目:令和2年度)には熱変動下による圧縮試験が実際に可能であることを実証した。この試験については現在も進行中であり、成果がまとまり次第、関連学会および学術雑誌にて発表予定である。報告年度である2020年度(3年目:令和2年度)において特筆すべきは、本研究(変態超塑性研究)一連の最終段階である「複合変形」の段階に着手できたことである。現在は特にこの複合変形試験に注力して研究を進めており、その進捗状況の速さより、SPFを得意とする民間企業の協力による産学連携の効果は非常に大きいと感じている。 具体的な研究の進捗状況として、報告年度3年目(2020年度:令和2年度)開始時において、従来の微細粒型SPFの成形装置を使用し、変態超塑性型SPFが可能であるかの検証に着手した。しかし、装置の性能上、急速な昇温・冷却が困難であったため、これまで実施されたことのない技術を別途考案した。それが内圧変形体による実験である。試験体は非常にシンプルであり、変態超塑性を示す材料を缶状態に加工し、内部を既定の圧力(最初は大気圧)に保持、昇温・サイクルを繰り返すというものである。これにより目標温度で内部に充填したガスの膨張により内圧が発生し、温度サイクルをかけつつも缶自体に内部から等方のガス圧を付加できる。この内圧変形体を用い、相変態が変形進行に寄与しているかに着目し調査を進めている。以上のように、今年度は当初計画していた圧縮試験の実施および次の段階である複合変形段階まで研究が進行したため、当初の研究計画以上に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目(2020年度:令和2年度)までには、本研究の第2段階である「圧縮試験」のセットアップおよび本試験を開始した。この第2段階の試験中ではあるが、計画に先立ち、第3段階として位置付けていた「複合変形」の研究に着手した。4年目(2021年度:令和3年度)以降はこれらを同時に進め、より、本課題のタイトルともなっている「フェライト鋼における変態超塑性を応用したSPF技術研究」の実現に近づけるよう努める。具体的に、前者(第2段階:圧縮試験)の研究は、これまでの計画通り、前課題(若手研究)で行った引張試験の成果をもとに、引張の逆となる圧縮のデータを採取していく予定である。また、4年目以降、組織観察などの評価を進めたうえで、その成果を順次発表していく計画を立てている。後者(第3段階:複合変形試験)の研究は、SPF複合変形による金属加工を得意とする民間企業の協力のもと、調査を続行する。調査の指針としては、基本的に第1,2段階(引張・圧縮)の実験プロセスにのっとり、相変態(温度サイクル)が変形を誘起していることを証明する方向で検討を進めている。一方で、今後の研究を推進する上で留意すべきこともある。それが「安全性確保と効率化」の検討である。本課題は最終的に革新的な金属加工技術のための研究である。その研究は工学発展の後、民生技術へと変遷することが予想できるが、そのうえで、安全性に欠ける技術であっては、加工における効率化を妨げる要因ともなり得る。そのため、第3段階の研究を推進する上で民間企業の技術者らと綿密に打合せを行い、効率的且つ安全に変形試験が行える温度履歴・圧力管理を徹底し、次年度も継続していく予定である。
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