2018 Fiscal Year Research-status Report
Study of physical property of QGP using gradient flow
Project/Area Number |
18K03607
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 裕介 筑波大学, 計算科学研究センター, 准教授 (60322012)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 格子QCD / クォークグルーオンプラズマ / 状態方程式 / エネルギー運動量テンソル / gradient flow / 粘性係数 / Kaon bag parameter |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は宇宙最初期に存在した、原子核の超高温状態であるクォーク・グルーオンプラズマ(QGP)の性質を研究する事にある。特にエネルギー運動量テンソル(EMT)を用いて、QGPの熱力学的及び流体力学的な性質を探る。計算手法としてはウィルソンフェルミオンで構成された格子QCDを採用し、EMTの定義にgradient flowを用いた非摂動論的な繰り込みを利用している点に特色がある。 2018年度は主に次の3つのテーマに関して研究を行なった。 (1)物理的なクォーク質量における熱力学領の観測。クォークの質量を現実と同じ物理的な値に置いてエネルギー運動量テンソルの測定を実施した。物理的なクォーク質量における計算には既に前年度から取り組んでいたが、温度190 MeV以下にあるはずの相転移点を観測できないでいた。本年度は温度122, 137 MeVにおけるゲージ配位の生成を行い、相転移点の確認を主目的として設定した。カイラル対称性の回復相転移はカイラル感受率を温度の関数として描いた時のピークとして観測される。本年度の成果として137 MeV付近にピークがあることが明らかとなった。 (2)クォークグルーオンプラズマの粘性係数の研究。計算コストを抑えるためにこのテーマに関してはクォーク質量を現実よりも重く設定して計算を行った。T=174-348[MeV]の温度領域においてエネルギー運動量テンソルの相関関数を計算し、モデルを仮定する事で粘性係数の導出を行なった。その結果相転移点以上の温度において実験値と非常に近いη/s=0.1前後の値を得た。ただし、ηはずり粘性でsはエントロピー密度である。 (3)K中間子のBパラメータのBK計算。gradient flowを非摂動論的な繰り込みに用いる事で BKを非摂動論的に求める。特にカイラル対称性の破れに起因する余分な演算子混合が弱くなることを期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は全年度を通して、1.クォーク・グルーオン・プラズマの粘性係数の導出。2.曲がった時空上のエネルギー運動量テンソルの計算。3.カイラル凝縮とカイラル感受率。4.K中間子の混合パラメータBKの計算。の4個のテーマに取り組む予定である。この内2を除く3個のテーマに関してはそれぞれ満足のいくレベルで取り組むことができた。 1.クォーク・グルーオン・プラズマの粘性係数の導出に関しては現実よりもやや重いクォーク質量を採用してT=174-348[MeV]の温度領域においてエネルギー運動量テンソルの相関関数を計算した。本年度はこれにモデルの仮定を適用して粘性係数の導出を行なった。 また現実的なクォーク質量を採用した研究のための第一段階としてゲージ配位の生成とエネルギー運動量テンソルの一点関数の測定を行なった。T>155[MeV]の高温側においては既にゲージ配位の生成は完了している。本年度は相転移温度を含む121<T<147[MeV]の温度領域のおけるゲージ配位の生成に注力した。これは確保できたコンピュータ時間の観点から現実的な判断であったと考えている。 3.カイラル凝縮とカイラル感受率に関しては、まず第一に現実世界の物理的なクォーク質量における相転移点の探索に注力した。上記1.における121<T<147[MeV]の温度領域のおけるゲージ配位生成と同時にカイラル感受率のそくていを行い、137[MeV]付近に相転移点があることを確かめた。 4.K中間子の混合パラメータBKの計算に関してはdownクォーク質量を現実よりも重く設定した計算を行った。計算精度はかなり良く、今後の展開に期待が持てる結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も主に次の3つのテーマに関して研究を行なう予定である。 (1)物理的なクォーク質量における熱力学領の観測。本年度は温度122, 137[MeV]におけるゲージ配位の生成を行い、相転移点の確認を目的とした測定を行なった。温度122, 137[MeV]における配位数は未だ不十分であり、今後も配位の生成を続けて行く。また相転移点の精度を上げるべく、T=129, 146[MeV]におけるゲージ配位の生成を行う。 (2)クォークグルーオンプラズマの粘性係数の研究。重いクォーク質量におけるエネルギー運動量テンソルの相関関数の計算は完了した。今後はモデルの仮定に依らない粘性係数の導出の取り組む。 (3)K中間子のBパラメータのBK計算。今年度の計算においてはdownクォークの質量は現実の値よりも重く設定されていた。今後はクォーク質量の値を変化させて、物理的なクォーク質量におけるBパラメータの値を外挿する為の計算に取り組む。
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[Presentation] Thermodynamic quantities in the Nf = 2 + 1 QCD; the case of somewhat heavy ud quarks2018
Author(s)
鈴木博, 石見涼, 梅田貴士, 江尻信司, 金谷和至, 北沢正清, 下条昂礼, 白金瑞樹, 鈴木遊, 鈴木博, 谷口裕介, 馬場惇
Organizer
日本物理学会秋季大会
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