2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K03608
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
諸井 健夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60322997)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 素粒子論的宇宙論 / 超対称素粒子模型 / 真空の安定性 / 暗黒物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は大きく分けて、(1)擬真空崩壊率計算のため必要なバウンス解を得る新たな手法の提唱、(2)アクシオン的暗黒物質検出のための新たな手法の提唱、そして(3)暗黒物質素粒子の加速器による検証方法の提唱、の3つのテーマについてそれぞれ新たな知見を得ることができた。 (1)擬真空崩壊率計算のためには、バウンス解と呼ばれるユークリッド化された時空での運動方程式の解を求めることが必要となる。バウンス解は鞍点解であるため、それを数値計算で求めることは困難である。本研究においては、gradient flowと呼ばれる手法に一部手を加えることにより、バウンス解を求めるためのflow方程式を求めることに成功した。千草氏および庄司氏とともに発表した論文においては、その理論的バックグラウンドが説明されるとともに、この方程式は数値計算によって解くことが容易であり、具体的な擬真空を持つ模型に対してflow方程式を解くことによって我々の提唱した手法が正しくバウンス解を与えることが示されている。 (2)アクシオン的場は暗黒物質の重要な候補であるが、その検証は容易ではない。アクシオン的暗黒物質が存在すると光の偏光面が時間的に振動する。本研究においては、長時間の偏光面観測の結果を用いることでアクシオン的暗黒物質が検出できる可能性、とくに偏光面の時間情報をスペクトル分解することにより検出可能なパラメータ領域を大きく広げられることを指摘した。 (3)暗黒物質粒子の加速器実験による検証は、今後の素粒子物理における重要なテーマとなっている。本研究においては、特に将来の加速器実験の可能性のひとつとなっている100TeV程度の重心系エネルギーをもつ陽子・陽子型加速器において、暗黒物質粒子やそれに付随する新粒子の性質(質量、量子数、寿命など)を測定する手法を提唱するとともに、その測定精度について議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の主軸となる研究は、1.ビッグバン元素合成に基づく標準模型を超える物理の研究、そして2.電弱真空の安定性に基づく標準模型を超える物理の研究のふ たつである。 研究実績の概要の欄に記入した通り、電弱真空の安定性に基づく標準模型を超える物理の研究については、バウンス解と呼ばれる真空安定性の研究で重要な役割を果たす場の配位に関して、それを求める新たな手法を提唱することができた。また、ビッグバン元素合成に基づく標準模型を超える物理の研究に関しては、現在1GeV程度以下の質量を持つ軽い(標準模型を超える物理の)粒子が光子や電 子・陽電子対に崩壊する場合についての制限について研究を進めており、主要な結果をすでに得ている。この研究に関しては2020年度中に論文としてまとめることが可能であると考えている。さらに、暗黒物質粒子を加速器実験によって研究する可能性やアクシオン的粒子の新たな検出手法の提唱などについても研究を行い、成果をあげることができた。 以上により、本研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はまず、ビッグバン元素合成に基づく標準模型を超える物理の研究を完成させる。現在1GeV程度以下の質量を持つ軽い粒子が光子や電子・陽電子対に崩壊する場合に対するビッグバン元素合成からの制限を、川崎雅弘氏、郡和範氏、村井開氏、村山斉氏とともに進めているところである。この研究に関しては、すでに主要な結果は得られているため、その結果の物理的解釈、様々な応用の可能性などについて考察を行い、論文としてまとめる予定である。 また、真空の安定性に関する研究について、真空崩壊に寄与するスカラー場が複数ある場合の真空崩壊率の1ループ計算についての研究を進める。スカラー場が一つしかない場合については過去に研究を行い、崩壊率の1ループレベルの一般式を与えることに成功している。しかし多くの模型においては複数のスカラー場が存在するため、過去の結果が適用できない状況も多々存在する。今年度はそのような場合における真空崩壊率について考察し、崩壊率の定式化を行う。
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Causes of Carryover |
2019年度には複数の国内外の出張(国際会議を含む)を予定していたが、コロナ感染拡大のためそれらの出張を行うことができなかった。このため、次年度使用額が生じた。これについては2020年度以降に類似の国際会議参加などの国内外の出張に使用する計画である。
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Research Products
(9 results)