2021 Fiscal Year Research-status Report
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18K03608
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
諸井 健夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60322997)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / インフレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は(1)スタロビンスキーインフレーション模型における新たな暗黒物質生成機構、(2)物性系アクシオンを用いた暗黒物質探査、(3)将来の電子・陽電子型加速器を用いたビームダンプ実験によるレプトンとの結合を持つゲージ粒子探査、のそれぞれについて研究し。 (1)スタロビンスキーインフレーションにおいて、インフレーションを起こすスカラー場(インフラトン)崩壊から暗黒物質生成が起こる可能性を指摘した。特に本研究においては、インフラトン崩壊が標準模型粒子とは重力以外で相互作用を持たないようなセクター(暗黒セクター)に崩壊することにより、暗黒セクターに含まれる安定粒子が暗黒物資となり得ることを指摘するとともに、電弱真空の安定性がこのシナリオに厳しい制限を与えることを明らかにした。 (2)物性系アクシオンは、素粒子アクシオンと同じ量子数を持つため、アクシオン暗黒物質などが存在すると、暗黒物質吸収により励起される。このことを用いて、本研究においては、物性系アクシオンを用いた暗黒物質の直接探査が可能であることを指摘するとともに、物性系アクシオン励起の反応率の計算を行った。 (3)レプトンとの結合を持つゲージ粒子は、ミューオン異常磁気能率に影響を与えうることや、いわゆるハッブル定数についてのテンション説明の可能性を与えることなどから興味を持たれている。このようなゲージ粒子は、電子・陽電子型加速器で用いられたビームがビームダンプに入射された際に、ビームダンプ内の核子とビームとの散乱により生成される可能性がある。このため、ビームダンプの背後に粒子検出器を設置することで、生成されたゲージ粒子を検出できる可能性がある。本研究においては、そのような方法によるレプトンとの結合を持つゲージ粒子探査について研究し、そのような実験はこれまで他の実験では検証できていないパラメータ領域に感度を持つことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の通り本年度は、第1にスタロビンスキーインフレーションにおける暗黒物質生成について、第2に物性系アクシオンを用いた暗黒物質探査について、第3に将来の電子・陽電子型加速器を用いたビームダンプ実験によるレプトンとの結合を持つゲージ粒子探査について、それぞれ研究成果をあげることができた。第1の研究は初期宇宙論において、暗黒物質生成の新たなシナリオを指摘するものであるとともに、スタロビンスキーインフレーションに基づく宇宙進化の新たなシナリオを与えるものである。第2の研究は、暗黒物質探査に対して物性系励起を用いるという、これまであまり注目されてこなかった可能性を指摘したものである。また、第3の研究は、将来の電子・陽電子型加速器に対して知見を加えるもので、加速器実験を用いて素粒子論的宇宙論の観点から興味深い粒子を探査するための新たな可能性を議論したものである。特に第2の研究で扱った、将来の電子・陽電子型加速器を用いたビームダンプ実験については、現在世界的にも興味が持たれており、本研究の成果も世界の加速器実験の方向性を議論するレポートにも引用されるなど、重要な成果として認識されている。 本研究課題は2021年度が最終年度であったが、研究に関しては予定通り、初期宇宙論の観点から素粒子標準模型を超える物理に対して様々な考察を行うことができたと考えている。さらに、研究開始当初は予定していなかったような研究成果をあげることができた。 以上のことから、本研究は順調に成果を上げたと考えており、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は2021年度が最終年度の予定であり、計画していた研究についてはほぼ終了している。そして、研究成果については学術論文としてこれまで公表してきた。 しかし、同時に予定していた国際会議などでの発表についてはコロナ禍のため(特にこの2年は)行えていないというのが実情である。そのため、2022年度まで繰越を行い国際会議などに出席し、研究成果を発表するとともに他の研究からのフィードバックを得る予定である。
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Causes of Carryover |
本研究課題で得られた成果は国際会議にて発表する予定であったが、コロナ禍のため2020年度および2021年度は国際会議出席が不可能であった。2022年度中に国際会議に出席して研究成果の発表を行うため、2022年度まで研究費を繰越すこととした。
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Research Products
(3 results)