2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K03614
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
土屋 麻人 静岡大学, 理学部, 教授 (20294150)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 超弦理論 / 行列模型 / 創発される時空 / ゲージ重力対応 / 情報計量 / 厳密くりこみ群 |
Outline of Annual Research Achievements |
IIB行列模型は超弦理論の非摂動論的定式化を与えると期待されている。この模型においては、時空はアプリオリには存在せず、行列の自由度から創発される。数値シミュレーションによって、この模型において3+1次元の膨張する宇宙の出現を示す結果が得られていた。一方で、この時空はその膨張に行列の固有値のうち 2つのみが関与しているという特異な構造を持っており、これはシミュレーションをするときに符号問題を避けるために行った近似に起因している。ここでは、 近似を行わずに、符号問題を解決するために複素ランジュバン法を用いてシミュレーションを行い、9次元の回転対称性が自発的に破れた特異性のない時空が出現している新しい相を発見した。一方、超弦理論は重力を含むため、超弦理論の非摂動論的定式化として行列模型を完成させるには、行列によって幾何がどのように記述されるのかを明らかにしなければならない。ゲージ重力対応においても空間が創発されるが、ゲージ理論からいかに重力側のバルク幾何が再構成されるかを明らかにすることが課題となっており、これを明らかにすることで行列模型による幾何の記述への知見が得られると考えられる。ここでは、一般のゲージ重力対応における情報幾何とバルク幾何の関係を研究した。双対重力理論を持つ場の量子論とそれに摂動をかけて得られる理論を考え、これら2つの理論の基底状態の間の距離を測る量子情報計量を、バルクにおいて元の場の量子論に対応する時空からのバックリアクションで表す公式を発見した。この公式は摂動の種類に依らない普遍的なもので、バルクの再構成の問題に大きな進展を与えると期待される。また、行列模型の非摂動論的解析手法の開発と関連して、スカラー場に対する厳密くりこみ群を高階の汎関数微分を含むものに拡張した。この結果は、未解決のゲージ理論に対する厳密くりこみ群方程式の構築に知見を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
IIB行列模型の数値シミュレーションを複素ランジュバン法を用いて実行し、9次元の回転対称性が破れた新しい相の発展など大きな進展が得られた。また、ゲージ重力対応における量子情報計量とバルクの幾何の関係の研究によって、行列模型における曲がった時空の記述についての研究も進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
次の二つの課題に取り組む。1)IIB行列模型の複素ランジュバン法を用いたシミュレーションを、並列計算を用いてより大きな行列サイズで推進する。これにより、宇宙初期の時空の構造の解明を目指す。2)コヒーレント状態法とBerezin-Toeplitz量子化の関係の研究を発展させ、行列模型における曲がった時空の記述の仕方を明らかにし、超弦理論を非摂動論的に定義する行列模型を完成を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響で国内および海外出張ができなかったためである。2022年度は、研究成果発表のための旅費に使用予定である。
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