2019 Fiscal Year Research-status Report
核子対相関と非束縛状態を基とした核構造の多様性の系統的解明
Project/Area Number |
18K03636
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
升井 洋志 北見工業大学, 工学部, 教授 (30396345)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中性子-中性子相関 / Halo構造 / 非束縛状態 / 不安定核 / クラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
核内における核子相関と原子核の広がりの関係を、クラスター殻模型によって解析し、Halo構造を抑制する新たなメカニズムを解明した。陽子-中性子対ではテンソル力が重要な相関を示すのに対し、中性子-中性子対では中心力が主な寄与となる。中性子ドリップライン近傍では、価核子である中性子が非常に弱く束縛されるために中性子-中性子相関が核構造に与える影響が大きくなると考えられる。一般的にドリップライン近傍の中性子過剰核では中性子の束縛エネルギーが小さいことから、核半径が大きく広がったHalo構造を持つ。Halo構造を形成するには、小さな束縛エネルギーに加えて価核子の持つ軌道角運動量が小さい(L=0ないしは1)であることが必要である。 フッ素同位体の中性子ドリップラインはN=22、31F核であり、この領域では陽子数と中性子数の比が1:1から大きくずれるため、殻模型で記述される標準的な魔法数が破れていることが示唆されている。よって、価核子はf-軌道(L=3)ではなくp-軌道(L=1)に入ることが期待され、これがHalo構造を形成する元となる。そこで、31Fをクラスター殻模型を用いて29F+n+nの三体模型として取り扱い、29F-n間のポテンシャルを実験と矛盾ない範囲で変化させ、30Fにおけるp-軌道とf-軌道の準位、31Fの束縛エネルギーおよび核半径の依存性を解析した。結果として、31Fの半径は30Fにおけるp-軌道とf-軌道のエネルギー差に依存し、エネルギー差が大きい場合にはp-軌道対が波動関数として支配的となりHalo構造を示すが、エネルギー差が小さくなると中性子相関が強く効くf-軌道対が支配的になり、f-軌道は十分大きな角運動量を持つために核半径の広がりが抑制されHalo構造を持たなくなるというメカニズムを解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請は(I)現実的核力が引き起こす核子相関の精密な解析および(II)価核子の模型空間における非束縛状態が核構造に与える影響の解明の二つを研究期間である3年間で明らかにすることが目的である。それらの理論的解明にあたり「ガウス基底によるM-schemeクラスター殻模型的アプローチ(M-scheme COSM)」を計算手法の主軸とし、(a)核内での相関を微視的視点で解析、(b)コア核内での重陽子相関が価核子空間に与える影響の解明、(c)重陽子-重陽子相関を取り扱える模型空間への拡張、の三つを具体的研究遂行手段としてあげている。 すでに(I)と(II)の目的達成のため、(a)の相関の微視的取り扱いについて十分な議論および計算に基づくメカニズムの解明を行なってきた。現実的核力としてArgonne V8'と呼ばれる核力を用い、重要な寄与であるテンソル部分を用いて相関を解析している。これに加えて、(II)の研究を中性子-中性子相関とHalo構造の発達/抑制という観点で進め、中性子対の相関が強く効く条件とHalo構造が抑制される条件とに強い相関(依存性)があることを明らかにした。 研究成果は国際ワークショップならびに国内の学会において発表済みであり、かつ学術論文として発表している。申請年数が三年でかつ大きく3つある研究課題(a-c)のうち残りが(b)および(c)の2つであり、かつ昨年度中にこの2つの課題についても他の研究者との議論を進めながら準備を行っていることを鑑み、概ね順調であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
残りの課題として(b)コア核内での重陽子相関が価核子空間に与える影響の解明と(c)重陽子-重陽子相関を取り扱える模型空間への拡張、が挙げられる。次年度は最終年度であるため(b)および(c)について同時進行で進める。 (b)ではコア核内の相関を「価核子の模型空間の部分的占有」という描像で記述する。占有される模型空間の算出においてコア核に対しM-Scheme COSMを適用する。導き出された結果を相互作用、あるいは禁止状態の記述に適用する。 (c)では二核子を対とする波動関数の模型を構築し、それに対し現実的核力を用いた構造計算の定式化を行う。
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Causes of Carryover |
国際ワークショップに参加したが、旅費支出額が少なめになったことで次年度使用額が生じた。次年度も2回以上の国際会議参加を予定しており、かつ欧州開催も含まれるため旅費支出については問題無いと考えられる。ただし、新型コロナウィルスの影響によっては、使用計画を変更する必要がある。
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