2019 Fiscal Year Research-status Report
荷電偏極を考慮した高精度核分裂収率による中性子星合体時r過程元素合成
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18K03642
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
石塚 知香子 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (10399800)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和南城 伸也 上智大学, 理工学部, 准教授 (30327879) [Withdrawn]
椿原 康介 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 研究員 (40815883)
関口 雄一郎 東邦大学, 理学部, 准教授 (50531779)
千葉 敏 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60354883)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 核分裂 / r過程 / 中性子星合体 / 元素合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、金やウランなどの重元素の起源であるr過程元素合成における核分裂サイクルの寄与を定量的に評価するための基盤を整備することである。そこで先ず必要となるのは、未知の要素が多い超重核の核分裂の性質をr過程元素合成の結果から予想するためのスキーム構築である。r過程元素合成では通常想定されるよりも遥かに質量数が大きく、中性子過剰な原子核の核分裂が重要となる。そこで実験値の存在する核種領域で十分に検証されたモデルを用いて未知の要素に対しては自由度を持った核分裂生成物収率模型を構築した後、r過程元素合成計算に適用し、観測結果との整合性から未知の超重元素の核分裂の様相に制限を与えることを目指している。 令和元年度は、昨年度に引き続き、核分裂生成物収率模型の基本となる2007年に分担者の千葉らが開発した核分裂質量収率模型(以下、Ohta2007模型)の改良に取り組んだ。具体的な成果としては、Ohta2007模型の質量収率を改良するために、実験値を独自に評価した核分裂生成物収率模型を完成させ、論文を執筆し、現在投稿の最終準備中である。また高い予言力を持つランジュバン模型を用いて超重核領域の核分裂についても研究を進めている。その結果、r過程元素合成で標準的に仮定されている核分裂生成物分布や全運動エネルギーとは大きく異なる様相が超重核核分裂では現れることが判明した。そこで新たに得られた結果をr過程元素合成に取り組むために超重核領域の系統的な大規模計算を実施している。 さらに令和元年度は、最終年度の論文投稿のための準備として、国内外から関連する研究者を集めた国際研究会を開催したことが大きな成果として挙げられる。この国際研究会は京都大学基礎物理研究所での研究会とのシリーズ研究会として開催され、この研究会の詳細は日本原子力学会核データ部会編纂の核データニュースにも会議報告として掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
r過程元素合成で重要となる超重核の核分裂については未知の要素が多い。たとえば、超重元素生成過程の副産物として核分裂についての実験データが存在する超重核領域の核種であっても、天体現象で必要とされる温度に比べて高い温度の実験データしか存在せず、系の温度が低くなるほど殻効果の影響が如実に反映される核分裂生成物の核種についての情報が得られない。しかしながら令和元年度に開催した国際研究会のおかげで、我々が核分裂生成物収率モデルを構築する際の基盤としている4次元ランジュバン模型が微視的な模型による最新の研究結果とも矛盾しないことが分かった。 このように4次元ランジュバン模型で予測された核分裂生成物の収率分布は既存のr過程元素合成計算で仮定されてきたものとは大きく異なる。そこで更に他の模型では予言が困難でありかつ4次元ランジュバン模型が得意とする全運動エネルギーについても系統的な計算により既存のr過程元素合成計算で仮定される値との違いに関する調査を開始している。 以上の結果を受けて共同研究者間で議論したところ、当初の計画よりも大規模計算により調査すべき核種が増えたことにより、ランジュバン計算の成果を利用する半現象論的な核分裂生成物収率モデルの構築は若干遅れ気味である。ただし、ランジュバン計算計算終了後の手順は既に確立しているため、最終年度中に本研究課題を論文にまとめることは可能と判断しており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和二年度は、先ず令和元年度に開始した4次元ランジュバン模型を用いた超重核領域の核分裂の様相に関する大規模調査を早期に完了させる。次に、ランジュバン計算の結果を核分裂生成物の半現象論的模型(平成30年度にテストモデルを構築済)に適用し、r過程元素合成への寄与を調べる。具体的には既存のモデルと本研究によって構築する半現象論的なモデルを用いた場合でのr過程元素合成計算による元素組成の違いを検証したり、r過程元素合成計算で組成パターンに特に大きく影響する核種については現時点で提案されている複数の核分裂生成物パターンを半現象論的モデルで仮定してr過程元素合成計算を行うことで観測データをより良く再現する核分裂生成パターンについて検証する。また令和二年度は最終年度であるから、以上の研究推進方策の個々の成果について順次すみやかに論文として発表する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は基本的には令和元年度に開催した国際研究会が申請時に想定したよりもお金がかからなかったためである。招待講演者の半数が来日費用を自前で調達してくれたり、参加者への旅費補助を想定していた割に旅費補助の希望者が少なかったことが具体的な理由である。
次年度使用額は最終年度の課題遂行に必要なRA経費や、論文の英文校閲および投稿料に利用予定である。
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