2019 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical research on gravitational wave phenomena caused by string axions
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18K03654
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
吉野 裕高 大阪市立大学, 数学研究所, 特別研究員 (20377972)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 強重力場 / 重力崩壊 / ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトはブラックホールのまわりのアクシオン場の振る舞い、およびその観測可能性に関する研究計画である。本年度は、本プロジェクトの研究テーマの舞台となるブラックホール時空の性質を明らかにし、さらに観測と関連する基礎的研究に関して成果をあげている。また、アクシオン場の振る舞いに関しても巨大な数値計算を進行させている。 まず、重力崩壊してブラックホールになる星の観測に関する研究で論文を投稿し、出版された。重力崩壊する星を光学的に観測するとどのように見えるかを光線追跡法という数値手法で計算し、その光学的像を作製した。この研究は銀河系内で将来超新星爆発が起こったときに、そこからのニュートリノの信号を予測するために必要な基礎研究という意味も持つ。 次に、ブラックホール時空での強重力場を特徴づける概念である「動的横捕捉面」を提案する論文を投稿し、出版された。静的球対称な時空では「光子球面」と呼ばれる光の円軌道のある球面が強重力場を特徴付ける概念として広く受け入れられているが、一般的な動的時空には適用できない。そこで我々は光子球面を一般化して、一般的な動的時空における自然な概念を定義することに成功した。これはブラックホールの「見かけの地平面」と類似性を持つように定義されている。さらに、「動的横捕捉面」が形成されるための条件を数値的に解析した別の論文も投稿し、受理されている。そこでは見かけの地平面の形成条件である「フープ仮説」との類似性が成り立つことを示した。 ブラックホールまわりのアクシオン場の振る舞いに関しては、現在、交付申請書の4つの段階の①から④のうちで①のテーマを続けており、その進捗状況を日本物理学会の年次大会で発表した。このテーマは困難に直面しており、次項でそれについて詳しく述べる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画の計画①は次のようなものである。アクシオン場は回転ブラックホールの周辺で「超放射不安定」と呼ばれる不安定性により成長していく。その成長はアクシオンの自己相互作用が効いてくると止まると期待されるが、その最終段階でおこる現象を数値シミュレーションで明らかにしようというものである。特に、爆発的現象が起きるのか、成長がおだやかに飽和するのかを明らかにしたい。 研究実施計画においてあらかじめ指摘しておいたとおり、この現象の典型的な時間スケールがブラックホール半径の10の7乗倍以上である。私は3次元の数値コードを開発したが、それでは計算が重すぎてこの時間スケールのシミュレーションはできない。そこで、擬スペクトル法と呼ばれるより計算が軽くなる方法を用いたコードを新たに開発した。当初は、擬スペクトル法で考慮するモードの数を制限すれば、長期シミュレーションが可能になるだろうというもくろみを持っていた。しかし、モードの数を制限する度合いにより結果が違ってしまうことが判明した。つまり、擬スペクトル法でもある程度多くのモードを考慮に入れてシミュレーションしなければ正確な結果が得られない。したがって、この方法でも計算に長時間かかる。 現在はこの方法である状況に対してはブラックホール半径の10の6乗倍のスケールまで計算し、おだやかに飽和するということを示唆する結果を得ている。しかし、シミュレーションで実現されている状況は最終状態と見なすにはまだ問題が残されている。最終状態を正確に求められない限り、そこから放射される重力波の信頼に足る予言ができないため、現在はかなり困難な状況にある。 さらに、この擬スペクトル法を用いたシミュレーションでは状況によっては数値不安定がおきる場合があり、さらに最近ではコロナウイルスの影響により大学で直接パソコンの前で作業しにくくなるなどの困難も生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
上で述べたように、取り組んでいる問題は単に数値計算すればよいというような単純なものではないことが判明した。しかし、その中でベストの結果が得られるよう努力したい。現在得られているアクシオンの不安定成長の最終段階に関する結果は完全に満足のいくものではないが、擬スペクトル法の精度を高めていった様子から外挿によって最終状態を推測することも1つの可能性として考えている。その上で飽和が最終状態と思われると主張する内容で一度論文にまとめたいと思っている。 最終状態が分かり次第、重力波も計算できるように、重力波のコード開発も同時にすすめてゆく。 さらに、この研究が長時間かかることを考慮し、今年度おこなったように広い意味でのブラックホールまわりの物質や場の振る舞い、および観測を視野にいれて研究をすすめる。
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Research Products
(10 results)