2018 Fiscal Year Research-status Report
一般相対論的輻射輸送計算と電波VLBI観測で探るブラックホールジェットの駆動機構
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18K03656
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Research Institution | Kogakuin University |
Principal Investigator |
紀 基樹 工学院大学, 工学部, 講師 (70531234)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川島 朋尚 国立天文台, 天文シミュレーションプロジェクト, 特任助教 (90750464)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ブラックホール / 一般相対論 / プラズマ / ジェット / 活動銀河核 / VLBI |
Outline of Annual Research Achievements |
イベントホライズンテレスコープ(以下EHT)コラボレーションは、M87の巨大ブラックホールシャドウの存在を史上初めて画像で直接証明することに成功した。この成果は、アメリカの天文学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』特集号に6本のシリーズ論文として掲載された。
M87中心核の画像からリング状の構造が検出され、リングと中心の暗い部分のコントラスト比が 10対1 以上になり、中心部が有意に暗いことが確認された。リングの直径はおよそ42マイクロ秒角であることから、ブラックホールの質量が太陽の65億倍であることがわかった。過去の研究では、M87ブラックホールの質量が太陽の35億倍か62億倍かと議論されていたが、本研究により、重い方の質量と一致すると決定づけられた。また、理論・シミュレーションとの比較から、リングの非対称性およびプラズマジェットが噴出している事実を組み合わせると、観測されたシャドウは一般相対性理論の厳密解として知られるカーブラックホールの近傍にあるプラズマからの放射であるとのシナリオと無矛盾であることが分かった。
一方で今回の観測では新たな課題も見つかった。これまでわれわれの行なってきた43GHzのVLBI観測で撮影されてきたM87画像では中心部から右上に伸びる強力なジェットが見られている。しかし今回のEHT画像では中心のブラックホールとリング状の放射のみが際立って検出されており、ジェット成分は検出されなかった。今回得られたブラックホールシャドウとジェットのつながり、そしてジェット生成機構が、ブラックホール研究における残された最重要課題となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の進捗について報告する。EHTコラボレーションではM87データ解析の進捗が順調に進んだ。そのため、結果の論文執筆は本年度中に行なうことになった。また私自身、本年度の初秋からは、同コラボレーションの理論(D2)グループに新規加入し、同コラボレーションへの貢献を開始した。これにともない、本研究計画内の取組み順番を調整して、EHTの成果の論文に注力した。私は特に、EHTコラボレーションの中の理論グループとともに第5番論文に携わり、観測されたブラックホールシャドウの理論的な解釈に関わり、コラボレーションメンバーとともに概要に記した結論を得ることに貢献した。天文学史上に残る重要な結果が本年度に得られたことから、「当初の計画以上に進展している」との自己点検の評価に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
1) EHTコラボレーションの進捗が順調であったため本研究計画の優先順位を調整したため、投稿中であった「光学的に厚い降着流が作るリングとフォトンリングの組み合わせでできる三日月上の影を有する新しいタイプのプラックホールシャドウの存在」の理論論文は、本年度はまだ受理にまで至らなかった。レフェリーからの比較的マイナーなコメントに対する改訂を完了し、本年度前半での受理を目指す。
2) EHTシリーズ論文で探求しきれなかったケースについての検討を行なう。具体的には、磁化パラメータが1よりも大きい領域中で電子用電子対の生成の可能性が示唆される「よどみ面」からのシンクロトロン放射のイメージについての検討を進める。
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Causes of Carryover |
予定していた物品費と実際に使用した物品費に若干の差が発生したため、次年度使用額が生じた。
次年度使用額は十分に少額なため、翌年度分の助成金と合わせた使用計画の内容自体は変更は無い。
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