2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K03657
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
初田 泰之 立教大学, 理学部, 助教 (00581084)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ブラックホール摂動論 / スペクトル理論 / 微分方程式 / 超対称ゲージ理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はブラックホール摂動論における準固有振動モードに関する固有値問題に主に取り組んだ。 まず回転するブラックホールにおける準固有振動モードの解析に取り組み、回転速度がスローなときの準固有振動数の半解析的結果を得た。Kerrブラックホールの摂動論はTeukolsky方程式と呼ばれる2階線形微分方程式によって記述されるが、この方程式をスロー極限で調べることは難しい。そこでTeukolsky方程式と等価なChandrasekhar-Detweiler方程式及びSasaki-Nakamura方程式に着目した。これらの方程式の利点は非回転極限でSchwarzschildブラックホール摂動を記述するRegge-Wheeler方程式に帰着するためである。この事実を利用してKerrブラックホールの角運動量を小さな摂動パラメータとみなすことで準固有振動数の摂動的結果を得ることに成功した。その他、Teukolsky方程式とN=2超対称ゲージ理論との関係についても取り組んだ。 また漸近平坦なブラックホールだけでなく、漸近de Sitterブラックホールについても準固有振動モードの解析を行った。Kerr de Sitterブラックホールの摂動を記述するTeukolsky方程式は4つの確定特異点を持つHeunの微分方程式と同等であり、その解はHeun関数と呼ばれる。Heun関数を用いてTeukolsky方程式の厳密解を構成した。ちょうどMathematica 12.1においてHeun関数が導入されたため、そのベンチマークも兼ねて、得られた厳密解からKerr de Sitterブラックホールの準固有振動数を数値的に計算し、これまでの結果を再現することを確認した。このMathematicaのコードを使うと、これまでの方法より短時間かつ高精度で計算できる点がメリットである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から引き続きブラックホール摂動論におけるスペクトル問題に取り組んだ。今年度は漸近平坦及び漸近de Sitterな回転ブラックホールの解析を主に行い、満足な結果を得た。まず漸近平坦な場合は回転速度が遅いときの準固有振動数の半解析的な結果が得られた。従来の解析では専ら数値的な方法ばかり取られていたので、今回の結果は準固有振動数の解析構造を理解する上で重要な一歩であると言える。漸近de Sitterな場合はHeun関数を用いて厳密な解を構成した。このこと自体は1990年代に予想されていたことではあるが、今回はMathematica 12.1を用いて、短時間かつ高精度で準固有振動数を計算できるようになったのは大きな進展と言える。今回の厳密解は準固有振動モードの解析だけでなく、様々な応用が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度であるが、引き続きブラックホールにおけるスペクトル問題について取り組む予定である。主に想定している課題は、漸近平坦及び漸近(Anti-)de SitterなKerrブラックホールの摂動論と超対称ゲージ理論との関係について深く理解することである。これらの摂動方程式は(合流型)Heun方程式と同一の特異点の構造を持っているが、N=2超対称ゲージ理論におけるSeiberg-Witten理論においても同様の方程式が見いだされる。このことから両者には数学的に似た構造があると期待され、一方の結果を他方に応用できる可能性がある。本研究課題の集大成として、この関係をできるだけ深く掘り下げ、新たなアプローチを提示したい。
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Causes of Carryover |
今年度は新型コロナウイルスのために出張が全く出来なかったため。次年度も旅費に使用することは難しそうであるが、最新型のコンピューターなどを導入し、解析的数値的な計算を強化する予定である。
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