2019 Fiscal Year Research-status Report
Cosmological Constant Problem and Scale Invariance
Project/Area Number |
18K03659
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
九後 太一 (汰一郎) 京都大学, 基礎物理学研究所, 特任教授 (00115833)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 宇宙定数 / スケール不変性 / ダイナミカルな対称性の破れ / 南部-Jona-Lasinio模型 / ディラトン場 / 真空エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
1.昨年度は、宇宙定数が計算可能であるためにはスケール不変性(すなわち理論に次元を持つパラメータが存在しないこと)が必要であること、一方、スケール不変性がたとえ量子論的に保たれても、それだけでは宇宙定数が実質ゼロであることを保証するには十分でなく、場がゼロでない非自明な停留点で真空エネルギーゼロを実現するには、結合定数の超微細調整が必要なことを明らかにした。 2.これは、ディラトン場とHiggs場の2スカラー場模型での1ループ摂動計算に基づく結論であったが、今年度は、量子スケール不変な理論でスケール不変性がダイナミカルに破れる場合でもこの結論が変わらないのかを調べた。一つは量子スケール不変な南部-Jona-Lasinio (NJL) 模型でダイナミカルな破れを考えたが、基本的に2スカラー場模型と同じく、超微細調整が必要であることがわかった。昨年度およびこの時点までの考察成果は、韓国およびギリシャでのSummer Instituteで講演し、後者の会議録にまとめて発表した。 3.ワイルゲージ理論のような局所スケール不変性を持つ理論では、ゲージ条件として場をノンゼロの値に固定してスケール不変性を破ることができる。このゲージ固定がもしダイナミカルな破れと同定できるなら、真空エネルギーゼロを自動的に実現しているのではないかと期待して、ゲージ固定とダイナミクスの関係を調べた。ゲージ固定は確かにダイナミカルと理解できるものの、残念ながら、量子スケール不変性自体は宇宙定数ゼロを自動的には保証しない、という結論を得た。 4.特殊部分群へのダイナミカルな対称性の破れについて、昨年のSU(N)NJL模型の研究の継続として、フェルミオン場がSO(N)スピノール表現のNJL模型を考察し、いろんなNの場合に、大域的SO(N)対称性がいつ特殊部分群に破れるのかを調べた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度には、「量子スケール不変くり込み」をおこなってスケール不変性を保持しても、量子補正がポテンシャルの平坦方向の平坦性を壊し、真空エネルギーがゼロであることを保証してくれない、という結果を得た。その上で、量子スケール不変なアプローチでも(通常のスケールアノマリーがあるというアプローチでも)対称性の自発的破れのダイナミクスの解析が必要であると結論づけた。 今年度は、この方向で研究を進めたが、ダイナミカルな破れを起こす簡単な模型として知られるNJL模型を、ディラトン場を導入して量子スケール不変な形に拡張し、スケール不変性のダイナミカルな破れを1/N展開の主要次で調べた。しかし、残念ながらこの模型のダイナミカルな破れにおいても、昨年の2スカラー模型におけると同様、スケール不変性は、ポテンシャルゼロの平坦方向の存在を保証せず、ゼロでない場の停留点を実現するには結合定数の超微細調整が必要であることがわかった。実はそれが一般の模型にも普遍的に妥当な理由によって起こっているので、単に「ダイナミカルな対称性の破れ」というだけのアプローチでは宇宙定数問題の解決は難しいと思われ、新しいアイデアを模索する必要が生じた。 ギリシャでのワークショップの中で、ワイルゲージ理論のように局所スケール不変な理論では、ゲージ固定によってスケール不変性が破れることを思い出し、そういう理論で何が起こるかを考察することにした。しかし、そこでも結局上述のように状況は改善せず、結局、宇宙定数問題の解決には「スケール不変性以外に新しい対称性ないし機構が必要である」という昨年の結果を強く再確認するだけの結果となった。 これはこれで重要な認識ではあるが、現在は、次に進むべき方向として、そういう新しい対称性ないし機構を模索するステージにあるので、いろいろ考えてはいるが余り表面に見える進展はない。
|
Strategy for Future Research Activity |
進捗状況でも述べたように、今や、量子スケール不変なアプローチでも、単にスケール不変性、あるいはダイナミカルな対称性の破れ、というだけでは、ポテンシャルゼロの平坦方向の存在を保証できないことが明らかになった。ポテンシャルの平坦方向の存在は、スケール不変性の自発的破れが起こること、と等価であり、その意味では、スケール不変性を自発的に破るダイナミカルな模型が見つけられていない、とも言える。 実績の項で述べた量子スケール不変NJL模型では、カイラル対称性はダイナミカルに破れるけれど、実は結合定数を超微細調整しない限り、世界のスケール単位を与えるべきディラトン場の停留点がゼロとなって、スケール不変性はダイナミカルに破られないのである。スケール不変性自体をダイナミカルに破るには、進捗状況でも述べたように、「スケール不変性以外に新しい対称性ないし機構が必要」だと思われるので、今後は局所スケール不変な2次重力理論、あるいは2次超共形超重力理論を中心に解析し、スケール不変性をダイナミカルに破りながら重力場も含めて並進不変な解を実現する機構を探求する。 この探求においてより広い可能性を探るため、これまでの連携協力者以外とも広く研究議論し、必要なら新しい研究協力者を作って共同研究をする。
|
Causes of Carryover |
3月に名古屋大学で開催が予定されていた日本物理学会第75回年次大会が、新コロナヴィールスのため急遽中止になったので、それに参加すべく残していた旅費分の経費が残った。これは2020年度開催の適当な国内研究会への参加旅費または国内共同研究者との研究打ち合わせ旅費に充てたい。
|