2020 Fiscal Year Research-status Report
Cosmological Constant Problem and Scale Invariance
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18K03659
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
九後 太一 (汰一郎) 京都大学, 基礎物理学研究所, 特任教授 (00115833)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 宇宙定数 / スケール不変性 / ワイル不変性 / Einstein-Hilbert項 / R2乗重力理論 / 重力子 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.一昨年度以来の宇宙定数問題に対する知見をまとめて発表した昨年度のギリシャCorfu Summer Instituteでの講演内容を、今年度その後の知見も加えてProceedings of Science誌に論文として投稿し掲載された。 2.スケール不変理論で、ポテンシャルの原点以外の非自明な停留点の存在を、すなわち「平坦方向の存在」を、保証することが停留値(=宇宙定数)ゼロを実現する必要条件であるが、そのこと自体はスケール不変性は保証してくれなかった。このことは、重力場をあらわに考慮すると、物質場のポテンシャルの値ゼロの非自明な停留点の存在が、重力場の並進不変な解(=平坦時空の解)の存在と等価な条件となるので、「平坦時空の存在を保証する対称性」は何か?ということと同じになる。 3.今年度は超共形超重力理論に限らず、一般座標不変性に加えて局所スケール不変性を持つWeyl不変理論を調べた。それは、局所スケール不変性のゲージ固定条件としてスカラー曲率Rをゼロとするゲージがとれる、という点に平坦時空の実現可能性を感じたからである。具体的にはR=0ゲージからユニタリーゲージへつなぐR_ξゲージを構成して事情を調べた。が、R=0はJordan枠での値であり、ユニタリーゲージのEinstein枠ではRはnon-zeroになる。残念ながら後者のRが物理的な曲率であり宇宙定数もゼロでないことを明らかにした。 4.この過程で、スカラー曲率Rの2乗項 R^2 だけでEinstein-Hilbert項のない純R^2重力理論において、平坦Minkowski時空上では、スピン2 Gravitonが現れないとする論文に遭遇した。これと矛盾する一般化された中西-小嶋定理を今一度見直し、スピン2のゼロ質量粒子の存在証明を完全なものにして、「Graviton の存在定理」とすることができた。この論文は執筆予定。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
スケール不変性があれば、物質場のポテンシャルの非自明な停留点で値がゼロになることは保証されるが、非自明な停留点の存在と等価な「物質場ポテンシャルの平坦方向の存在」条件は、たとえ量子スケール不変なダイナミカルな自発的対称性の破れでも実現が難しいことを昨年度までに明らかにしていた。そのため今年度は、重力理論のサイドから問題にアプローチし、物質場ポテンシャルの値ゼロの非自明な停留点の存在条件と等価になる重力場の並進不変な「平坦時空解の存在」を保証する「対称性」はあるか?という観点で、ワイル不変な重力理論を研究したが、そこでゲージ固定条件として実現できる平坦性 ― スカラー曲率R=0 ― は、残念ながらJordan枠の値であり、それとゲージ等価な物理的なEinstein枠ではR もポテンシャルの停留値もnon-zeroになっていることが明らかになった。 かくして、現在、物質場の理論側からも、重力理論側からも、いろいろなアイデアを試してきたが、すべて、消える宇宙定数を説明することに対してはうまくいかないことが明らかとなっている。「重力子の存在定理」などの副産物の「成果」はいくつかあるが、本題の宇宙定数問題の解決への研究としては、否定的な結果しか得られておらず、本当に新しいアイデアを必要としている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況でも述べたように、物質場の理論側からも、重力理論側からも、これまで試してきたアイデアは全て、宇宙定数ゼロを説明することに対してはうまくいかないことが明らかとなった。現在、次に試したいアイデアとして次のことを考えている。 観測するエネルギースケールを変えるにつれて、スカラー場φと曲率Rの非極小相互作用項φ^2Rが誘起されJordan枠になるので、次々Einstein枠に戻す"Reframingとくり込み"が必要になる。これをやると、益川博士の言う「ミクロの重力場とマクロの重力場は別物」というアイデアが自動的に取り込まれる「再枠構築くり込み群」の方法になるのではないか? R=0ゲージとユニタリーゲージ(Einstein枠)をつなぐR_ξゲージは、そういうreframingをゲージパラメータのくり込みで自動的に行う有用なゲージとして見直す価値がある。(尤も、このR_ξゲージは、Einstein枠で常にR=0が実現していてほしい今の要求からすれば逆の状況であるが。) 我々が物理を見るときの時空というのは、「常に平坦に見えるように計量場を再定義しながら構成される概念ではないか?」ということである。弦理論では、Planckスケールに於いて時空概念が、x^μから、{\tilde x}^μへ、曲率が小さく見える計量時空の方へ離散的に転移した訳だが、そういう「時空概念=計量場の再定義」を連続的に行うべきではないか?ということである。また、自発的対称性の破れが起こった場合には、離散的な転移=再枠構築が必要だろう。 このアイデア自体がうまくいかない場合でも、重力の量子論としてはくり込み可能な2次曲率重力理論の枠内で考察するので、高階微分の場の理論に関する正準量子化やくり込みに関する一般的で有用な知見は得られるものと期待している。
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Causes of Carryover |
本科研費のほとんどすべての支出は、国内外で開催される国際会議、Summer Institute、物理学会、研究会への参加費、旅費、あるいは、国内の共同研究者との研究打ち合わせ旅費として計画・計上していた。が、今年2020年度はコロナ禍でそれら全ての研究集会が、中止ないしはオンライン開催となってしまった。共同研究者との議論も実際に会えず、オンラインでしか出来なかった。そのため、旅費や登録費がほとんど不要になり、ほとんど全てが次年度繰り越しになってしまった。 来年2021年度も使用予定の内容は今年度とほとんど同じなので、現在のコロナ禍が早く収束してくれないと、今年度からの繰り越し分さえも使えないかもしれない。来年度が最終年度だが、素粒子論関係書籍やソフトウェアの購入、ネット環境の改善などに経費を使っても、少なくとも当初予定の来年度分の助成金が残るのは確実と思われるので、最終年度の次の年への繰り越しも要望したいと思う。
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Research Products
(2 results)