2021 Fiscal Year Research-status Report
Cosmological Constant Problem and Scale Invariance
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18K03659
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
九後 太一 (汰一郎) 京都大学, 基礎物理学研究所, 特任教授 (00115833)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 宇宙定数 / unimodular gravity / Einstein gravity / Faddeev-Popov ghost / ゲージ固定 / de Donder ゲージ / 反対称テンソルゲージ場 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年2021年度は、Unimodular Gravity (UG) について研究した。UGとは、Einstein重力理論 (GR) において基本力学変数の「計量場 g_{μν} が、determinant g≡det(g_{μν})=1に固定された理論」である。UGでは、宇宙定数Λは作用汎関数のなかで √{-g}×Λ の形でのみ現れる項なので、そもそも重力場には全く結合しない、ということになる。したがって、スカラー場の定数真空期待値φ_0により生じるポテンシャルの停留値V(φ_0)も、宇宙定数として効かなくなる。 初めにGR理論において、4成分(vector) parameterの一般座標(GC)不変性のゲージ固定として、一つを計量のUnimodular条件に選び、他の3つをde Donderゲージの横波3成分とするようなローレンツ共変なゲージ固定法を開発した。これは余分なスカラー場を導入することで横波de Donderゲージ条件を4成分ベクトル条件に書き換えるゲージ固定法で、通常のde Donder gaugeと同様、重力場は横波2成分のみが物理的であることを証明した。 続いて、横波条件のついたGC不変性 (TDiff) しか持たないUGに対して、新しいlocalで共変なゲージ固定法を提唱した。アイデアは、横波条件のついたTDiff変換のFaddeev-Popov ghost場c^μを、条件のない反対称テンソル場で表現することで、反対称テンソルゲージ場系と同様のゲージ固定が可能になる。初めのTDiff不変性のゲージ固定のためのFP反ghost場としては、1)2階反対称テンソル場(の発散)で書くか、2) GRの場合と同じスカラー場を入れる方法で、ベクトル場にするか、の二つの可能性があり、どちらのゲージ固定でもそれぞれ、重力場は横波2成分のみが物理的であることを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度までの研究では、物質場の理論側からも、重力理論側からも、いろいろなアイデアを試してきたが、どれもすべて、当初期待していた「理論自体の力学が宇宙定数をゼロにする機構」を発見する事ができていなかった。 この方向の宇宙定数問題の解決への試みは今後も続けるが、一方、今年2021年度は、新たな視点から問題を見直すべく、unimodular重力という立場からの研究を始めた。そこでは、共変的ゲージ固定の新しい方法を見いだすことができ、Einstein重力理論とunimodular重力理論の量子論レベルでの関係について理解が深められた。すなわち、unimodular重力理論では、重力場はそもそも宇宙定数項と結合しない。しかし、量子補正により誘起される宇宙定数(に相当する量)はunimodular multiplier場にくり込まれるので、その意味ではEinstein重力理論における宇宙定数パラメータのくり込みと同じ操作をしている、ということである。しかし一方、後者のパラメータくり込みはfine tuningで問題だが、前者のmultiplier場のくり込みは、そもそもunimodular重力理論では重力場が宇宙定数に結合しなかったのでtuningは自動的である、とも見做せる。そうすると、宇宙定数問題はunimodular重力理論では存在しない、あるいは単にpsychologicalな問題に解消されると言えるかもしれず、さらに研究を進めたい。もしunimodular重力理論で良い、ということになれば、(2)概ね順調に進展しているという区分になるかもしれない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、スケール不変性自体は、それだけでは宇宙定数をゼロにする力学的機構としては役立たない事が明らかになったが、この世界のスケールがPlanck定数を基本単位としていることは明らかであり、重力理論においてスケール不変性が自発的に破れているとする考え方が自然である。 一方、unimodular重力理論は、計量場のUnimodular条件がスケール不変性をあからさまに破っているので、「局所的スケール不変性=Weylゲージ不変性」をもつ重力理論を考え、「一般座標変換群×Weyl変換群」の中でunimodular条件を保つ変換としてスケール変換を考えたい。そういう理論での、くり込み可能性、スケール不変性の自発的破れ、さらにmassive ghostに関わるユニタリー性問題、などを総合的に研究したい。 また、これまで超重力理論を考えてこなかったが、この世界の根本の宇宙定数がそもそもゼロであることを保証するのは(自発的に破れる前の)超対称性しかなく、超対称性が自発的に破れた後に宇宙定数がゼロであり得るのは超重力理論しかない。したがって、超重力理論の枠内で、超共形ゲージ不変なunimodular重力理論とは何かを考察することはこの宇宙定数問題に新たな視点を与えてくれるものと思う。 これらの多面的研究の中から、当初の期待である「宇宙定数を消す力学的機構」が発見される可能性も依然として存在すると思う。
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Causes of Carryover |
本科研費のほとんどすべての支出は、国内外で開催される国際会議、Summer Institute、物理学会、研究会、等への参加費と旅費、あるいは、国内外の共同研究者との研究打ち合わせ旅費として計画・計上していた。が、前年度に引き続き今年2021年度もコロナ禍でそれら全ての研究集会が、中止ないしはオンライン開催となってしまった。共同研究者とも実際に会えず、オンラインでしか議論出来なかった。そのため、旅費や参加登録費がほとんど不要になり、ほとんど全て(当初予定の2年分を)補助事業期間の延長で繰り越すことになってしまった。 来年2022年度も使用予定の内容は基本的には今年度と同じにしたいが、現在のコロナ禍が早く収束しても、この繰り越し額の全額は使えそうにないので次年度も再延長を申請する必要があると思う。今回は、当初の使用計画に加えて、オンラインでの会議・議論のために便利なようにパソコンやネットワーク環境のハードの改善やソフトウェアの購入などにも経費を使い、再延長で繰り越す残額を次々年度に使える程度に抑えるよう計画する。
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