2020 Fiscal Year Research-status Report
第一原理計算に基づく原子核クラスター状態におけるテンソル力の働きの解明
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18K03660
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
明 孝之 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (20423212)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 現実的核力 / テンソル力 / 第一原理計算 / クラスター / 分子動力学 / 複素座標スケーリング / 共鳴 / 核物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績は、1)テンソル最適化反対称化分子動力学(TOAMD)を用いた現実的核力に基づく軽い核の構造研究、2)エネルギー変分理論を用いた現実的核力に基づく無限核物質の研究、3)複素座標スケーリング法(CSM)を用いた量子共鳴状態の研究、に分類される。
1)TOAMDによる4Heの精密波動関数を用いて核子の運動量分布を求め、論文として出版した。運動量分布をTOAMDで求めた相関関数により分解することで、テンソル力と短距離斥力の効果を議論した。次にp殻核の第一原理計算を行った。今年度は5核子系である5He核を調べて論文として出版した。試行関数には4He+n(4N+N)の2体クラスター配位を採用し、クラスター間の距離を重ねる生成座標法を行うことで基底状態と励起状態を同時に記述した。特に励起状態は3H+d(3N+2N)の分離エネルギーの近傍に得られており、この配位を持つ2体クラスター状態の可能性が示唆された。加えてこの結果は、試行関数が4N+N配位でも相関関数により3N+2Nの状態が得られることを示しており、TOAMDの相関関数の柔軟性が示された。 2)核物質は原子核のエネルギー飽和性や星の物理と関係する。本研究ではエネルギー変分に基づき核力から核物質を微視的に求めた。核物質の一部を有限粒子数で記述し、そこに高運動量をもつ核子対の励起を混合させた。今年度は中性子物質の状態方程式を高密度領域まで調べ、その成果を論文として出版した。特に短距離斥力とテンソル力の効果の密度依存性を議論した。 3)CSMによる結合チャネル系の散乱問題を解く枠組みを発展させた。CSMを用いて各チャネル毎のグリーン関数を求めることで2体結合チャネル共鳴の散乱位相差への影響を議論した。この結果を論文として執筆中である。また、これまでのCSMによる量子多体共鳴の成果を非エルミート系の物理の特集論文として出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現実的核力を使う原子核理論であるTOAMDを用いて、多くの研究成果とそれらに基づくアイデアが得られた。 1)TOAMDの試行関数であるAMD波動関数に配位混合を行った。この枠組みでは各試行関数に応じて各相関関数が最適化される。その結果、原子核の基底・励起状態に関して異なる相関を記述することが可能になった。これにより各固有状態における核力相関の特徴を議論することができる。実際に5He原子核の基底・励起状態に現れる異なるクラスター構造の議論を行った。 2)TOAMDでは全系の波動関数を相関関数による冪級数展開で表す。すなわち2体相関関数Fの多重積(F^2,F^3)が現れ、これらをクラスター展開法により多体演算子に展開して各項を試行関数に掛ける。これまではクラスター展開法による展開係数を多体項の重みとして用いてきた。そのため各多体項の自由度が固定されてきた。一方、各多体項は粒子交換に対して対称性を保つことが判明し、この性質により各多体項を独立な変分基底関数として扱うことが可能になった。この新しいTOAMDの枠組みを検証中であり、軽い核の束縛エネルギーへの効果は確認済みである。 3)核物質の第一原理計算法の新しいアイデアを得た。それは有限粒子数による記述に基づくが、現在の高運動量を含む核子対の配位混合とは異なり、2体相関関数Fを用いる。この新理論はTOAMDの核物質版と位置付けられる。フェルミ球に基づく有限粒子の試行関数に対して相関関数Fを掛け、全エネルギーを最小化する変分原理に基づいて相関関数の形状を決定する。この方法により核力相関を相関関数の視点から議論できる。現在は理論の定式化を進めている。 4) CSMを用いた量子多体共鳴の原子核模型として、一般的なコア原子核+4核子系、すなわち5体問題まで解くことが可能になった。 以上の成果から、進捗状況は順調であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度行ったTOAMDの拡張に基づいて原子核の構造解析を進める。以下が今後の推進方策となる。 1)p殻核の計算:TOAMD波動関数の重ね合わせが可能になり、5体系以上のp殻核の構造解析を推進する。AMD基底関数に対して様々なクラスター的な配位を重ねることで基底・励起状態を記述する。特にテンソル力等の核力相関が原子核の各固有状態に与える効果を分析する。軽い核では5Heのように、基底状態と励起状態では異なるクラスターの内部構造を持つ原子核が多く存在すると考えられ、それらの検証と予言を行う。枠組みの発展として、相関関数Fの多重積F^2,F^3をクラスター展開した多体項を独立な基底関数として扱うことで、TOAMDの変分自由度を一層増加させ、より精密な波動関数を求める。この新しいTOAMDを用いて軽い核における核力相関を検証する。 2)TOAMDではこれまで2核子間力を扱ってきた。次の発展として3核子間力を扱う。特に軽い核との整合性の観点から3核子間力の検証を行う。3核子間力は2π交換型のように2体力のダイアグラムで構成される。この行列要素をTOAMDで計算するためには2体相互作用の多重積が必要となり、そのためのクラスター展開に基づく定式化をTOAMDで行う。 3)核物質についてTOAMDの相関関数の概念を用いた新しい理論体系を構築する。これは核物質に対する新しいエネルギー変分理論となる。この新理論を用いて、核物質の状態方程式の飽和性の起源と核力の関係を調べる。 4)CSMによる不安定原子核の共鳴状態・連続状態の構造を調べる。一般的なコア原子核+4核子系の模型を用いて8He=4He+4n等の5体問題的な原子核の散乱現象の記述を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により他機関への出張は自粛となったため、国際会議、国内学会、国内研究会等の集会への参加、および共同研究者との打ち合わせを見送った。このため次年度使用額が生じた。今後の使用計画は、同様に国際会議等への参加、研究打合せのための旅費に充てる予定である。また数値計算を行うワークステーション等の計算機の購入に充てることも計画中である。
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Research Products
(14 results)