2021 Fiscal Year Research-status Report
第一原理計算に基づく原子核クラスター状態におけるテンソル力の働きの解明
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18K03660
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
明 孝之 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (20423212)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 現実的核力 / テンソル力 / 第一原理計算 / 分子動力学 / 複素スケーリング / 核物質 / クラスター展開 / 共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は(1)現実的核力を用いた軽い原子核と核物質の研究、(2)複素スケーリング法(CSM)を用いた多チャンネル・多体共鳴状態の研究を行った。 (1) 反対称化分子動力学(AMD)を基底関数として現実的核力を用いた軽い核の構造研究を幾つか行った。一つはユニタリー相関演算子法(UCOM)により短距離相関を取り入れ、同時に高い運動量をもつ核子対を二組まで原子核中に含めた配位混合の計算を行った。結果は軽い核の精密エネルギー解をよく再現し、論文として公表した。今後は多数の核子対を効率よく取り入れる拡張が考えられる。二つ目は、テンソル演算子を含む2体の相関関数の多重積をAMD型の基底関数に掛けた「テンソル最適化AMD法」の拡張である。この枠組では相関関数の多重積をクラスター展開により多体項に分類し、各多体項をすべて独立な変分関数として扱う。このクラスター展開の新方法の効果を軽い核で検証し、その結果は精密解のエネルギー、ハミルトニアン成分を良く再現した。得られた成果を論文に公表した。三つ目は、エネルギー変分原理にしたがって核物質を核力から記述する研究を行った。核物質の一部を有限個の核子で扱い、その領域に高運動量状態へ励起する核子対の成分を含めた。今年度は対称核物質の状態方程式を調べ、テンソル力の密度飽和性、相関を含む運動エネルギーの密度依存性を調べた。 (2) 多チャンネル系の散乱問題を解くCSMの枠組みを論文として公表した。各チャンネルのグリーン関数をCSMによって定義し、結合チャネル2体系の共鳴の散乱位相差への寄与を議論した。また中性子過剰なHe同位体(5He,6He,7He,8He)、および鏡映核である陽子過剰核(5Li,6Be,7B,8C)の共鳴の対称性の検証と予言を行い、論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
テンソル最適化AMD法(TOAMD)を基盤として、研究成果が得られ今後の発展性が議論できている。 (1) TOAMDの波動関数は2体相関関数Fの冪級数展開になっている。したがって相関関数の多重積F^n(n=2,3,...)が含まれ、各積項をクラスター展開により既約な多体演算子に展開して試行関数に掛ける。各多体項は粒子交換に対して対称性を持つため、すべての多体項を独立な変分関数として扱うことが可能となった。この新しいクラスター展開の方法をTOAMDに適用し、各多体項の寄与をエネルギー変分に基づいて決定した。結果として軽い核の結合エネルギーへ有意な効果が見られた。 (2) 相関を含むAMD法にユニタリー相関演算子法(UCOM)の適用を行い、短距離相関を導入する理論として有効であることが判明した。TOAMDへの将来的な適用に目途が立った。 (3)核力を用いた核物質の新しい理論として、核物質の一部を有限の核子群として取り出し、そこに相関関数を掛けることで多体相関を直接扱う方法を着想した。今年度は定式化をほぼ完了することができた。今後は数値計算を進めて枠組の検証と核物質における核力相関の解析を行う。 (4) 複素スケーリング法による多体共鳴の物理として一般的な5体問題まで解くことが可能になり、中性子過剰なHe同位体等へ適用した成果が求まった。 以上から進捗状況は順調であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
TOAMDを中心に据えて以下のように原子核の構造研究を進める。 (1) p殻原子核以上の構造解析を行う。試行関数にα粒子等のクラスター的な配位を用意し、相関関数を掛けた配位混合を行うことで基底・励起状態を記述する。特にテンソル力が原子核の各状態に与える特徴を調べる。枠組みには相関関数の多重積から生じる多体項をすべて独立な基底関数として扱う「クラスター展開の新方法」を用いる。新しいTOAMDを用いて核力が原子核にもたらす多体相関を検証する。関連してユニタリー相関演算子法(UCOM)をTOAMDに取り入れる。TOAMD+UCOMによって多体相関を陽に含む原子核の記述が可能になる。この新方法の定式化に取り組む。 (2) TOAMDを用いて3核子間力の効果を軽い核で検証する。3核子間力は複数のπ中間子交換のダイアグラムの積で表現される。TOAMDのクラスター展開法を用いて3核子間力の行列要素を近似無しに扱い、その効果を調べる。 (3) 核物質について有限粒子数と相関関数を組み合わせた新しい枠組みを遂行する。これは核物質の新しいエネルギー変分理論となる。この新理論を用いて、核物質の状態方程式の飽和性の起源と核力、特にテンソル力との関係を調べる。 (4) 複素スケーリング法を用いて不安定原子核の共鳴の性質を系統的に調べる。芯となる原子核+4核子群の5体模型を用いて8He=α+4中性子等の不安定原子核の電磁励起等を調べ、過剰中性子を起因とする未知な励起構造の出現可能性を調べる。
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Causes of Carryover |
所属先の方針としてコロナ禍によって他機関への出張は自粛となったため、国際会議、国内学会等の参加、および共同研究者との対面での打ち合わせを見送った。これにより次年度使用額が生じた。今後の使用計画は国内学会への参加、研究打合せのための旅費に充てる予定である。
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Research Products
(12 results)