2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K03683
|
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
足立 一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (00249898)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | シングルフォトン / 光検出機 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は当研究の最終年度となり、プロトタイプ2号機の性能評価を行い、そこで得られた知見をフィードバックし、プロトタイプ3及び4号機を製造し、さらに4台のプロトタイプを用いて、光検出器システムを構築し、宇宙線を使用して総合試験を行うことが大きな目標である。また、計算機を用いたシミュレーションを用いて磁場の影響を低減させる磁場シールドの形状を決め、試作し、性能試験を実施する。プロトタイプ2号機については、φ10mmのレーザーを用いてフォトカソードの一様性及びゲインの変化を評価した。その結果、1号機と比較して、ゲインは同程度であるが、量子効率の5%程度の向上及び一様性についても、より良い結果が得られた。これはフォトカソード活性化時のアルカリイオンの蒸発方法について改善を加えたからと考えられる。つまり1号機で得られた結果から考察し、製造工程を改善したことが、この結果となったと思われる。これは今後の製造を進展させる上で大きな成果である。また、この結果を確認し、3号機と4号機の製作に取りかかれた事は当研究を確信を持って進める点で、意義は高い。3号機、4号機納品の後、性能試験を実施し、2号機と同様の結果が得られた。これも予想通りで、安定に新型光検出器の製造ができることが明確になった。この結果は今後の発展にも寄与するものと考えることができる。総合試験であるが、現在はプロトタイプを組み上げ、データ収集システムの構築及び試験を行なっているところである。また、磁場シールドについては、磁場の強さ及び方向などを計算機シミュレーションで確かめ、形状を決定した。現在試作が完成し、その評価を進めるため、実際に北カウンターホールの電磁石で試験をする準備を行なっており、すぐに試験に取り掛かれる状態である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実績に記載したように、総合試験である宇宙線テスト及び磁場シールドの最終的な評価試験が終了していないことから、やや遅れているとの評価になる。この原因は、昨年度の新型コロナの影響が大きい。特にプロトタイプ製造を依頼している業者との製作に関する細かな技術的な打ち合わせが実施できず、リモートでは指示することが困難で、早急に取りかかれず時間がかかってしまったことが最も大きい。さらに総合試験を実施するためには4台のプロトタイプのデータ収集システムの構築が必須である。これには連携研究者の協力を考えていたが、実験室で同時に働くという時間が取れず、自宅勤務の奨励のあり、進めるのに予想以上に時間がかかっていることも一因である。宇宙線トリガーのためのカウンター製作なども二人で実施する予定であったため、感染状況を考慮して開始が遅れたことの項目の一つである。一方で、計算機シミュレーションは自宅勤務でも進めることが可能で、光電子の電場でのトラッキングなど、プロトタイプの基本性能を理解する上での精度は向上したと言える。磁場シールドについても、計算機を用いた形状設計は順調に進めることができた。しかし、これについても実地試験は、準備を一人で行なったこともあり、予定以上に時間がかかってしまったことがある。これらの準備はほぼ完了しており、今年度は、連携研究者とは独立に進めるところも多くあるため、1年延長すれば問題ないと思われる。 また、イタリアのナポリ大学の研究者と連絡を取り合い、研究を進めてきているが、直接出張で議論できず、リモートで進めざる得なかった。先方の感染状況もあり、当初はリモートでも連絡が取りにくかったことも遠因である。
|
Strategy for Future Research Activity |
進捗状況に記したように、今後は宇宙線を用いた総合試験の実施が最も大きな課題の一つである。トリガーカウンターの製作は終わっており、セットアップを組み、データ収集システムが起動すればデータが取得が開始できる予定である。この中でデータ収集システムの構築に時間がかかっていたが、ほぼ完成しており、基本的動作の確認し、問題ないと思われる。プロトタイプについてまずはLEDを照射し、各読み出しチャンネルの健全性を確認し、シングルフォトンが検出できる高電圧を印加しデータ取得を開始する。これをリファレンスの基準データとする。その後、MPPCのバイアスを5V程度変化させ、観測するチェレンコフ光の光量の変化を調べる。また、電極の高電圧も50Vづつ変化させ、得られる光量の変化を観測する。リファレンスデータからの変化量がシミュレーションと合っているかなどが確かめる大きな点の一つである。さらにプロトタイプの1台をBelle実験で用いているハイブリッド型アバランシェ光検出機に交換して、データを収集する。これによってシングルフォトンの感度をハイブリッド型アバランシェ光検出機と直接的に比較できる。磁場シールドについては、北カウンターホールの電磁石に設置されている暗箱内にセットアップを組み、磁場をかけLEDを照射し、データをとって、シールドの効果を定量的に見積もる。さらに磁場の向きに対してプロトタイプの角度を変化させ、シールド効果の変化を調べる。 これらの試験結果から新型光検出機の総合的な評価を行い、シールドを用いて磁場内での動作可能性を議論する。本来はイタリアのナポリ大学の研究者と直接議論をする予定であったが、リモート会議として、小規模研究会を催し、さらに知見を深め、研究の成果とする。
|
Causes of Carryover |
進捗状況に記したように、新型コロナの影響でプロトタイプ製造に遅延があり、総合的な試験まで実施できなかったため。また、総合試験のセットアップに関して、連携研究者と共同での作業を予定していたが、感染拡大、在宅勤務推奨などで、実際にとりかかるまでに、予定と比べて大きな時間がかかった。さらに、海外の共同研究者との連絡も取れなくなったことも一因である。このような点から最終的な成果を獲得するために一年延長を申請した次第である。
|