2020 Fiscal Year Research-status Report
Disentangling forward neutron production of soft QCD and Coulomb scatterings using polarized hadron beam
Project/Area Number |
18K03688
|
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
三塚 岳 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (00566804)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 高エネルギーハドロン散乱 / 非摂動QCD / スピン |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 非摂動QCDシミュレーションの作成 衝突エネルギー200-510 GeV領域での非摂動QCDシミュレーションを作成し、前方中性子および中性パイオンのスピン非対称度を導出した。非摂動QCDはpomeronやreggeonといった仮想粒子の交換によって成り立つ。陽子-陽子散乱から生成される前方中性パイオンの運動を記述するため、昨年度は核子(938, 1520)reggeon交換のみを考慮していたが、今年度はさらにΔ(1232) reggeon交換を組み込んだ。横運動量が0.5 GeV/c以下ではΔ共鳴から生成される中性パイオンが主成分となるため、シミュレーションへのΔ reggeon交換の導入は不可欠である。中性パイオンのスピン非対称を求めるには、これらreggeon間の位相干渉効果を考慮すればよい。核子reggeon交換とΔ reggeon交換の相対的な強度は、過去にISR(衝突エネルギー45 GeV)で得られた荷電パイオン生成データを用いて規格化した。本シミュレーション結果とRHICf実験による中性パイオンスピン非対称測定(BNL, 510 GeV)と比較し、横運動量が0.3 GeV/c以上では両者が概ね一致することを確認した。 2) RHIC加速器データを用いた前方中性子のスピン非対称の導出 RHICにおけるPHENIX実験データの解析を進め、研究結果をPhys. Rev. D 103, 032007 (2021)として発表した。研究代表者も携わった先行研究(PHENIX Collaboration, Phys. Rev. Lett. 120, 022001)では横運動量を細かく分割することなくスピン非対称を導出していた。一方本研究では、unfoldingにより横運動量が精度良く求める事が可能となり、0.05 GeV/c程度毎にスピン非対称を導出出来た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主な課題は、1)クーロン-原子核干渉効果シミュレーションの開発、2)非摂動QCDシミュレーションの開発である。まず1)のクーロン散乱に関して、原子核の形状因子を正確にシミュレーションに実装するには至っていないが、これは計画2)により多くの研究時間を割り振ったためである。次に、2)の非摂動QCDシミュレーションの開発は、「研究実績の概要」に記した様に順調に進行している。横運動量が0.3 GeV/c以上ではシミュレートした前方中性パイオンのスピン非対称がRHICf実験結果とも概ね一致している事を確認している。0.3 GeV/c以下で寄与が大きいΔ reggeonの導入も完了し、スピン非対称の導出へ向け位相や初期過程・最終過程での吸収効果を精査している段階である。 一方で令和三年度に予定していた、RHIC加速器データを用いた前方中性子のスピン非対称の導出が前倒しで進行した。横運動量毎のスピン非対称を導出するスペクトラムunfolding手法が確立したことにより、検出器の特性により鈍ってしまった方位角分布もほぼ真の分布へ戻せることを確認した。研究結果はPhys. Rev. D 103, 032007 (2021)として発表されている。 上記した様に、クーロン散乱シミュレーションの開発を除けば、計画通りもしくは前倒しで研究が進んでおり、総合的には概ね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画は以下の2点である。 1) クーロン散乱シミュレーションの開発を進める。初めに、原子核の形状因子を正確に実装し、クーロン場(電磁場)の強度に相当する仮想光子の数とエネルギー分布のシミュレーションを高精度化する。可能であれば、2π-MAIDモデルを導入して光子-陽子散乱のシミュレーションを高度化する。最終的にはクーロン散乱と非摂動QCDの干渉効果によるスピン非対称を導出する。 2) これまでに開発した非摂動QCDシミュレーションを改良する。具体的には入射粒子(初期過程)や生成粒子(最終過程)に対する吸収効果を高度化する。現在は入射粒子と生成粒子の間には一回のpomeronまたはreggeon交換しか起こらないと限定している。しかし入射粒子間、または生成粒子間でもpomeronやreggeon、その他ハドロンや光子の交換が可能であり、この様な仮想粒子交換が位相シフトや生成断面積を抑制する吸収効果となる。交換粒子の位相差から生成粒子のスピン非対称が引き起こされるため、吸収効果を含めてRHICf実験結果と比較する。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は新型コロナウィルス感染拡大により、海外出張や国内外会議参加を見合わせたためである。令和二年度の当初の予定では国内外の専門家と、非摂動QCDシミュレーションの開発に関して、特に核子およびΔ reggonの結合定数、vertex関数、吸収効果の議論を行うはずであった。しかし、コロナウィルスの影響で海外出張そのものを取りやめたため、海外出張一回分に相当する助成金が未執行となった。 令和三年度は国内出張を2回程度想定している。海外出張可否は見通しが立たないため、その分の旅費を物品費として使用し、シミュレーション開発とデータ解析のために計算機の増強に当てる予定である。
|
Research Products
(1 results)