2018 Fiscal Year Research-status Report
ホモキラリティーの起源を星間アミノ酸に探る-キラル中心をもつ前駆体の分光学的研究
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18K03705
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
尾関 博之 東邦大学, 理学部, 教授 (70260031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 かおり 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (80397166)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ホモキラリティー / アミノ酸 / マイクロ波分光 / 星間物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
星間空間における生命素材物質の探索は、生命の起源を探るうえでの重要な課題となっている。我々はこれまでに地球生命に不可欠なアミノ酸、その中でも特にもっとも単純なアミノ酸であるグリシンに着目し、その生成ネットワークを構成する様々な前駆体分子の観測に必要な分光学的情報を明らかにしてきた。地球生命体はこれらの生命素材物質がホモキラルな状態になって構成されている。原始星誕生から生命発現に至る長い道筋の中で、片方の鏡像体が選択されるメカニズムを明らかにする必要がある。本研究では、アミノ酸の原料となりうる生命素材物質のうち、鏡像体が存在するものに着目し、それらの天文観測に必要な分光学的情報を明らかにすることを目的としている。 研究初年度は、最も単純なキラルアミノ酸であるアラニンの前駆体物質の一つである5-メチルヒダントインの純回転スペクトルのミリ波帯での測定、およびマイクロ波帯での測定を行うためのフーリエ変換マイクロ波分光計の立ち上げを行った。 まず5-メチルヒダントインのミリ波帯分光であるが、グリシンの前駆体であるヒダントインの分光実験と同様の手法で測定を試みた。第一原理計算を実施し、大まかな分子構造および双極子能率を推定した。そしてb型遷移が優勢に観測されることをシミュレーションにより確かめたうえで、160GHz帯でサーベイ測定を行った。その結果、検出したスペクトル線の一部が、振動基底状態のb型R枝遷移として帰属可能なことを見出した。暫定的な量子数の帰属から推定された回転定数は、量子化学計算の値と1%以下で一致したことから、5-メチルヒダントインの同定の第一段階は達成できたと考えている。 フーリエ変換マイクロ波分光計は、信号測定のためのパルス制御回路設計が終了し、安定分子の測定が可能になった。今後放電回路の作成、および自動測定のためのプログラム開発を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
5-メチルヒダントインの分光学的同定については、研究の第一着手ともいえる測定条件の最適化に相当な時間を要したが、最終的には安定的に測定が可能な条件を設定することができた。しかし、得られたスペクトル線強度が予想以上に小さかったために、最初に行うサーベイ測定データの信号雑音比は、一般的な安定分子のそれに較べてかなり低いものと言わざるを得なかった。これは、5-メチルヒダントインがメチル基を有しているため、内部回転や低振動励起状態を持つことにより、例えばグリシンの前駆体であるヒダントインと比較して、分配関数が格段に大きくなっていることによるものと考えられた。ヒダントインのサーベイ観測では百数十本のスペクトル線を観測するのみであったが、本研究における5-メチルヒダントインの測定では千本以上のラインが検出できたことからも、この点は裏付けられる。天文観測において最も重要と考えられる、振動基底状態のスペクトル線は、今回観測した千本以上のスペクトル線の内のわずか数十本しか対応しないが、周波数および強度分布を参考にして、研究初年度の内に同定の手掛かりを得られたことは大変に大きな意義を持つと考えている。 マイクロ波領域への測定を展開するための、フーリエ変換マイクロ波分光計の立ち上げに関しては、当初の計画通りパルス回路の設計が終了し、分光計の感度測定に多用される硫化カルボニルの信号を測定することに成功した。 以上より、研究進捗に関しては、全体としておおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
5-メチルヒダントインの振動基底状態に加え、本報告書作成時点までに2種類の振動励起状態の同定に成功した。現在、これらのスペクトル線の周波数精密測定を行い、分子定数の精緻化を図っているところである。できるだけ早急にこれらの作業を完了し、その成果を国際シンポジウム(2019年6月)、国内学会(2019年9月)において発表するとともに、学術雑誌への論文投稿を速やかに行う予定である。 フーリエ変換マイクロ波分光計については、パルス条件の最適化を進め、分光計の感度を最大化する作業および、二重共鳴法の導入に向けた準備作業を進めたい。現在この分光計で測定可能な周波数範囲は、6~18GHzであるが、研究二年目の間に、上限周波数は26.5GHzまで拡大する予定である。さらに二重共鳴法の導入がうまく進めば、上限周波数は60GHzまで拡がるものと期待している。
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Causes of Carryover |
分光計の検出系として、液体ヘリウム冷却の検出器の使用を想定していたが、液体ヘリウムの需給状況がひっ迫し、かつ調達価格も上昇したことから、冷却検出器の使用を中止して常温動作の半導体検出器を用いて測定することにした。そのため、液体ヘリウムの購入のために確保していた予算の一部を、他の消耗品の購入および次年度使用に充当することとした。常温動作の検出器を用いたことによる分光計システム感度の若干の低下は、ミリ波帯光源の高出力によりある程度補償されており、研究の進捗に大きな支障は生じなかった。
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Research Products
(5 results)