2019 Fiscal Year Research-status Report
ホモキラリティーの起源を星間アミノ酸に探る-キラル中心をもつ前駆体の分光学的研究
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18K03705
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
尾関 博之 東邦大学, 理学部, 教授 (70260031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 かおり 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (80397166)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アミノ酸前駆体 / ホモキラリティー / マイクロ波分光 / 星間物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
星間空間における生命素材物質の探索は、生命の起源を探るうえでの重要な課題となっている。地球生命体はアミノ酸、糖、脂質、核酸といった生命素材物質がホモキラルな状態になって構成されている。原始星誕生から生命発現に至る長い道筋の中で、片方の鏡像体が選択されるメカニズムを明らかにすることは、特に重要な課題である。本研究では、アミノ酸の原料となりうる生命素材物質のうち、鏡像体が存在するものに着目し、それらの天文観測に必要な分光学的情報を明らかにすることを目的としている。 研究二年度は研究初年度に引き続き、最も単純なキラルアミノ酸であるアラニンの前駆体となる、5-メチルヒダントイン(以下5-MHと記す)のミリ波分光と、マイクロ波領域で稼働するフーリエ変換マイクロ波分光計(以下FT-MWと記す)の製作を行った。 まず、5-MHについては、300GHz帯でのラインサーベイ観測から、特に強度の大きな遷移を抽出することにより、振動基底状態にある5-MHの分光学的同定を確かなものとした。具体的には研究初年度に確定させたb型-R枝の遷移に加え、a型-R枝の測定にも成功した。これにより分子定数の精度は飛躍的に向上し、5-MHのミリ波帯観測を行うのには十分な精度の周波数カタログを構築できた。また二種類の振動励起状態にある5-MHついても帰属に成功し、分子定数を得ることができた。これらは共に低エネルギーの振動モードと推定され、天文観測の上でも重要な遷移となる可能性が高いため、分子定数の精度向上を目指した精密測定を進めている。 FT-MWの製作は、(1)ヘルムホルツコイルを利用した真空槽内の磁場補正、(2)パルス放電回路および電極の製作・設置、(3)測定可能周波数範囲の26.5GHzまでの拡張、が順調に進んだ。これにより、安定分子に加え常磁性不安定分子の測定が可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初より取り組んでいる5-メチルヒダントイン(以下5-MH)は、いくつかの理由からヒダントインに較べてスペクトル線強度が小さく、量子数の帰属には相当な時間を要したが、これまでに基底状態を含め3種類の振動状態について、帰属が確定した。しかし、解決したスペクトル線の本数は約250本程度で、もともとサーベイ観測で測定したスペクトル線総数の5分の1にも満たない。現在までに、未帰属線の中から更に3種類の振動励起状態の候補を見出しているが、確定作業は今後の課題となっている。これらはいずれも最初に帰属が確定した振動基底状態に較べてスペクトル線強度が小さいため、確定には相当の時間を要すると見込まれる。 フーリエ変換マイクロ波分光計の製作関連については、研究二年度当初の目標をほぼ達成できた。初年度の測定可能最高周波数は18GHzで、硫化カルボニルの信号を確認し、立ち上げた分光計の感度を確認するところまでであった。研究二年度に真空槽内の磁場補正および分子の放電生成を可能にし、測定上限周波数を26.5GHzまで拡大したことにより、測定可能な分子・遷移の種類を大幅に増やすことができた。これは今後に向けての大きな収穫といえる。試験的にいくつかの常磁性不安定分子(シアノメチルラジカルやイソシアノメチルラジカル)の信号を確認し、更にグリシン前駆体であるアミノメタノール(速度論的に不安定な分子)の測定にも取り組み始めた。 しかしながら2020年初頭から始まったコロナ禍に伴う実験室シャットダウンにより、研究二年度最後の二か月弱の間、実験がほぼ完全に停止してしまったこともあり、当初の計画以上の成果を上げるには至っていない。 以上より「概ね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
5-メチルヒダントイン(以下5-MHと記す)については、当初基底状態に加え、主要な振動励起状態(第一原理計算の結果から5ないし6種類)を含めた形での論文化を予定して準備を進めていた。しかし、これら主要な振動励起状態全ての帰属には相当な時間を要することが明らかになったため、実験は進めつつ、天文学的に最も重要な振動基底状態にある5-MHの周波数カタログの公表、および学術論文による発表を至急進めることとしたい。 フーリエ変換マイクロ波分光計については、分光器の測定感度が経験的に知られている到達可能感度と比較して若干低いことが判明した。研究二年度に実施した作業で測定感度は研究初年度より大幅に向上しているが、まだ向上の余地がある。これは生成効率が必ずしも高くない不安定分子の測定を行う上では不利になる。そこで個々のマイクロ波コンポーネントの電気的性能を確認しながら、分光計の測定感度の更なる向上を目指す予定である。これと並行して、速度論的に不安定なアミノ酸前駆体分子の分光学的同定作業をすすめていく。グリシン前駆体であればアミノメタノール、アラニン前駆体であればメチルアミノメタノールが測定候補になるが、前者については測定条件・周波数帯を変えながらスペクトル線の検出の試みを既に始めており、分光学的同定に向け、帰属の端緒を何とかつかみたいと考えている。同分子については、現在共同研究を展開しているフランス共和国リール大学に加え、アメリカ合衆国エモリー大学の研究室との共同研究を行うことも視野に入れ、情報交換を進めているところである。
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Causes of Carryover |
研究初年度と同様、ミリ波サブミリ波分光計の検出器として冷却検出器の使用を想定していたが、検出素子(InSb素子)を冷却するための寒剤である液体ヘリウムの供給不安定と、それに伴う調達価格の高騰のため、使用を断念した。代替として常温動作検出器を使用することとした。そのため、液体ヘリウム代として確保していた消耗品費の一部でフーリエ変換マイクロ波分光計製作のための電気部品を購入し、残りを次年度消耗品購入費用に充当することとした。 常温動作検出器使用により、検出器由来の熱雑音の増大による分光計のシステム雑音の増大が生じ、しばしば分光計システム感度の低下を招く。しかし、ミリ波帯の測定であれば、光源出力が概ね100mW以上と十分に大きいため、検出器由来の雑音の影響をある程度補償することができる。本研究では、この補償が期待できないサブミリ波帯の測定も予定していたが、ミリ波帯の測定だけで天文観測に必要十分な精度で5-メチルヒダントインの周波数カタログの整備が可能であると判断できたため、結果的に研究の進捗に支障は生じていない。
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Research Products
(4 results)