2021 Fiscal Year Research-status Report
ひさき衛星惑星間空間ヘリウム分布の光学観測による太陽圏と星間ガスに関わる研究
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18K03731
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
山崎 敦 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (00374893)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ひさき衛星 / 惑星間空間ヘリウム分布の光学観測 / 太陽圏 / 太陽風と星間雲の相互作用 / 極端紫外光観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
2010年にボイジャー1号が到達した太陽系の外側の領域(星間雲)と太陽から放出されるプラズマの流れ(太陽風)の圧力バランスによって、太陽系の勢力範囲(太陽圏)が決定される。星間雲環境の直接観測はボイジャーなどの大規模計画でしか成しえないが、太陽圏内での観測でも星間雲起源の侵入物質を選別することによって星間雲の状態を推測することが可能となる。本研究では、太陽圏内での極端紫外分光観測から星間雲起源ヘリウムの散乱光成分を選別し、星間雲ヘリウムの物理パラメータを同定することが課題である。この光学観測の手法は、約40年前から行われている伝統的な方法であり、同じ観測手法で導出した星間雲パラメータを比較・議論することが可能なため、太陽圏と星間雲の現在・過去・未来を考察することが可能となる貴重な観測方法である。 具体的な方法は、「ひさき」衛星による太陽圏内の極端紫外分光観測データと、星間雲起源中性ヘリウムの太陽圏内分布モデルから求められる極端紫外光分布を比較することで、星間雲の中性ヘリウムの物理パラメータを導出する。本年度は、2015~2020年にわたる6回の観測好機の極端紫外分光観測結果から、各年の星間風方向の最適解を導出した。過去40年間の他衛星観測と比較して、風向は誤差の範囲内で一致し、太陽風と星間雲のバランスには大きな変化はないという結論を得た。また、2020年から開始した通年観測から、太陽圏の黄道面内全体にわたる中性ヘリウムの空間分布の星間風方向依存性を導出した。これらの結果は国内学会にて研究成果として報告した。今後も「ひさき」衛星による太陽圏内の極端紫外分光観測を継続し、太陽圏環境の経年変化の有無について研究を継続する。また、星間雲の中性ヘリウムの風向以外の物理パラメータを導出することにも挑戦し、複数のパラメータについて経年変化の有無を議論することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の目標は、2020年度に観測した「ひさき」衛星による太陽圏内の極端紫外分光観測データから、星間雲の中性ヘリウムの物理パラメータのひとつである星間風方向を導出することと、2021年度の太陽圏内の極端紫外分光観測の実施であった。2020年度の観測データから星間風方向を導出し、昨年度までに導出した2015~2019年度の星間風方向と合わせて、最近6年間にわたる星間風方向の時間変化を導出することに成功した。この結果は、過去40年間の星間風方向の推定結果と比較して誤差の範囲内で一致し、太陽風と星間雲のバランスには大きな変化はないという結論を得た。また、2020年から開始した中性ヘリウム極端紫外散乱光の通年観測のデータ解析に着手し、黄道面内の中性ヘリウムの空間分布を得た。星間風方向依存性の導出に十分に意味のあるデータが取得できていることを確認した。本研究の成果報告を国内学会で行った。しかし、国内外の同分野の研究者と直接議論を交わすことが困難な状況下で、論文執筆投稿まで質を高めるまでには至らなかった。研究提案時には想定していなかった新たな研究課題も含めて、引き続き研究を継続することを考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に論文投稿に至らなかったため、研究期間をさらに1年間延長し、論文投稿を最優先課題とする。まず、これまでに観測した2015~2020年度の星間風方向導出結果を成果報告として公表する。また、2020年から開始した通年観測データ解析を進め、太陽圏内の中性ヘリウム分布における星間風方向依存性を導出することを目標とする。さらに、星間雲の中性ヘリウムの風向以外の物理パラメータを導出することにも挑戦する。光学観測では解析結果に感度が高いとは言えないが、星間雲の中性ヘリウムの密度・温度・風速などの物理パラメータについても経年変化の有無を議論できるためのデータ解析を進める。具体的には、導出する物理パラメータに合わせた計算機シミュレーションコードに修正し、観測データとシミュレーション計算値の比較を実施することで各物理パラメータを導出する。星間雲の中性ヘリウムの複数の物理パラメータについて経年変化について論文執筆を進める。
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Causes of Carryover |
研究会出張のキャンセル等により旅費枠について未使用額が発生した。研究期間を1年間延長した2022年度は、旅費については最低限の国内旅費のみとし、学会参加費、論文投稿料、解析用ツールの継続利用に使用する計画である。
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[Presentation] 「ひさき」衛星による惑星間空間のヘリウム光学観測2021
Author(s)
山崎 敦, 村上 豪, 吉岡 和夫, 木村 智樹, 土屋 史紀, 北 元, 桑原 正輝, 益永 圭, 鍵谷 将人, 坂野井 健, 寺田 直樹, 笠羽 康正, 吉川 一朗, ひさき(SPRINT-A)プロジェクトチーム
Organizer
第150回地球電磁気・地球惑星圏学会(SGEPSS) 総会および講演会