2019 Fiscal Year Research-status Report
過去108年の関東・東海沖水温の構築:沿岸海洋温暖化の実態と日本気候への影響解明
Project/Area Number |
18K03737
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
杉本 周作 東北大学, 理学研究科, 准教授 (50547320)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 黒潮大蛇行 / 関東東海沖沿岸沖昇温 / 沿岸域大気海洋相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本南方沖を東向きに流れる黒潮は、2種類の安定した流路を取ることが知られている。一つは紀伊半島沖で南に大きく蛇行し、関東・東海沖のはるか南を流れる「大蛇行流路」、他方は四国・本州南岸沿いを流れる「直進流路」である。漁場や魚種分布の観点で、これら流路の変遷に伴う日本沿岸水温変化の理解が重要であり、従来の研究では大蛇行流路期では、黒潮は日本から遠い外洋を流れるため、関東・東海沖沿岸の海水温は低下するとされてきた。そのような状況のなか、2017年8月に黒潮は12年ぶりに大蛇行状態に遷移し、現在も継続中である。この12年間で、人工衛星観測の高解像度化が進展し、海洋内部自動観測機器(Argoフロート)の観測網が整備された。そこで、本年度は、上述の観測資料を用いることで、大蛇行流路に起因した関東・東海沖沿岸水温の実態およびその物理機構の解明を試みた。まず、米国NASAが開発した1km解像度の衛星観測海面水温資料を用いて大蛇行に伴う水温分布を調べた結果、関東・東海沖沿岸水温は約3度も上昇することがわかり、従来の概念を覆す結果を得た。そこで、Argoフロートや気象庁による船舶観測資料をもとに関東・東海沖の水塊構造を調べた。その結果、大蛇行流路期には高温/高塩水が海面から深さ300メートル付近まで厚く分布していることが見出され、水塊混合比解析によりこれが約200km以上離れた海域を流れる黒潮の特性と一致することがわかった。そして、人工衛星海面高度計資料解析により、大蛇行流路に伴う幅50~100km程の分岐流が、黒潮の水を関東・東海沖沿岸に再分配する役割を果たしていたことを新たに発見した。 上記研究は、ハワイ大学マノア校のBo Qiu教授と実施した国際共同研究であり、2019年9月に国際学術誌 Journal of Oceanography誌に受理された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の主目的は、「①黒潮内側域水温の長期時系列の作成」、「②黒潮内側域水温変動機構の解明」、「③黒潮内側域水温の上空大気場への影響評価」の3点である。本年度は目的②の遂行に尽力し、得られた成果は学術論文としてまとめ、2020年の春に国際学術誌に掲載されることが決定している。加えて、本年度は目的①の70%を終えることができ、学術論文の執筆作業を残すのみである。また、目的③については、2018年度から2019年度にかけて東北大学サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピューターに(SX-ACE)よる数値実験を終えており、出力値の妥当性の確認は終えている。以上の観点から、研究課題は順調に進展しており、当初の目的は十分に達成できると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究活動で発見した黒潮大蛇行流路に起因した関東・東海沖沿岸昇温は、隣接する関東・東海地方の気候に影響を及ぼすことが期待される。そこで、日本の地域気候への海(黒潮)の影響の物理的解釈を得るために、研究代表者が所属する東北大学サイバーサイエンスのスーパーコンピューター(SX-ACE)による水温感度実験を本年度末までに実施した。 次年度は、大型計算機による出力値の解析作業を主に実施する。具体的には、沿岸昇温に起因する直状態大気の気温や風応答機構を調べ、この変化に伴う遠隔影響機構を考察するなかで日本地域気候に寄与する新シナリオの構築を目指す。そして、気象庁が日本国内約1300箇所で展開している地域気象観測システム(AMeDAS)により採取された地上気温データを併用することで観測の観点で、シミュレーションの妥当性を提示するなかで、黒潮を軸とした局所的大気海洋相互作用システムの構築を目指す。 得られた研究成果は順次国内外の学会等で報告し、国際学術誌で発表する予定である。
|
Causes of Carryover |
論文掲載にかかる支払い請求が年度末の3月にきたため、事務手続きの時間的制約により次年度に繰り越することを決断した。次年度に入り次第、該当の支払い処理を速やかに執行する予定である。
|
Research Products
(4 results)