2020 Fiscal Year Research-status Report
過去108年の関東・東海沖水温の構築:沿岸海洋温暖化の実態と日本気候への影響解明
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18K03737
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
杉本 周作 東北大学, 理学研究科, 准教授 (50547320)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 黒潮大蛇行 / 大気海洋相互作用 / 沿岸 / 関東地方 / 夏 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の南の海には世界最大規模の暖流である黒潮が流れている。この黒潮は、2017年夏に大蛇行流路に遷移し、現在も継続中である。かつては大蛇行に伴い黒潮が本州から離れると関東・東海沖内側域の水温は低下するとされていた。ところが、昨年度の研究により、大蛇行期に出現する黒潮分岐流に伴い関東・東海沖の水温が上昇するという従来の概念を覆す結果を得た(Journal of Oceanography誌に発表)。夏は南風が吹くため、大蛇行に伴う関東・東海沖沿岸昇温が近隣の諸都市に影響を及ぼすことが予想される。そこで、本年度は、スーパーコンピューター上で気象庁非静力学大気モデル実験を実施し、日本の夏の気候に及ぼす黒潮の影響を分析した。実験にあたり大蛇行に起因する沿岸昇温が発生した海と発生しない海を境界条件とし、それぞれに対する大気応答の違いを検出するなかで沿岸昇温の影響を評価した。なお、沿岸昇温の影響を十分に表現できるように5kmの空間解像度でモデル実験をおこなった。実験の結果、黒潮大蛇行の影響で関東地方の気温が約0.6度上昇することが明らかになった。この実験結果は最近の大蛇行期間に観察された気温上昇と同程度であった。そして、気温上昇のメカニズムとして、大蛇行に伴う沿岸昇温により蒸発が盛んになり、関東地方に流れ込む水蒸気が増加し、その結果、温室効果で気温が上昇することを発見した。加えて、黒潮大蛇行の影響で高くなった湿度により関東地方では不快日の数が倍増することを指摘した。 上記研究はハワイ大学マノア校のBo Qiu教授とNiklas Schneider教授と実施した国際共同研究であり、2021年1月に国際学術誌 Journal of Climate誌に受理された。これにあわせて国内外に向けてプレスリリースを行い、研究成果はテレビのニュース番組でも紹介された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の主目的は、「①黒潮内側域水温の長期時系列の作成」、「②黒潮内側域水温変動機構の解明」、「③黒潮内側域水温の上空大気場への影響評価」の3点である。②については、昨年度に国際学術誌への掲載を達成した。本年度は目的③の遂行に主に尽力し、得られた成果は学術論文としてまとめ、2021年春に国際学術誌に掲載されることが決定した。加えて、本年度は目的①のために作成した長期データの信頼性・確実性の検証作業を遂行した。 以上の観点から、研究課題は順調に進展しており、当初の目的は達成できる段階にあると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、黒潮内側域を対象に作成した長期水温時系列を軸に解析を行い、その周波数特性や過去の黒潮大蛇行との関連を中心に研究活動を展開する。そして、IPCC第6次評価報告書で使用される気候モデル出力値(CMIP6)を併用することで、日本近海でのモデルの妥当性を検証するとともに、内側域水温変動機構の解明に資する知見の入手を試みる。加えて、黒潮大蛇行に伴い出現する黒潮分岐流の幅・厚み・強さ、海流直上の気温や水蒸気などの大気構造の実態を理解するために2020年度に新青丸航海を申請し、採択された。この観測航海は2021年5月末の実施を予定しており、ここで得られる大気海洋観測資料を解析することで黒潮分岐流の実態、および大気場への影響解明に資する知見を観測証拠として速報的に提示する。本年度が最終年度であるため、得られた研究成果を国内外の学会や学術雑誌などに公表するとともに、webページなどを通じて広く世間に発信する。
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Causes of Carryover |
論文掲載にかかる支払い請求が年末に届き、それに該当する金額を次年度に繰り越すことにした。次年度になり次第、該当の支払いを速やかに執行する予定である。
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Research Products
(7 results)