2018 Fiscal Year Research-status Report
レーダー・音波併用気温プロファイル測定システム(RASS)の高機能化
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18K03741
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
津田 敏隆 京都大学, 生存圏研究所, 名誉教授 (30115886)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢吹 正教 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (80390590)
橋口 浩之 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (90293943)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | RASS / 気温プロファイル / 赤道大気レーダー(EAR) |
Outline of Annual Research Achievements |
RASS(Radio Acoustic Sounding System)は、大気レーダー(ウィンドプロファイラ)と大出力音波発射装置を併用した新レーダー技術であり、対流圏の気温と風速の高度プロフィイルを全天候で観測できる斬新なレーダーリモートセンシング法である。RASSでは大出力の音波を発射し、それによって生成される大気密度変動に伴う屈折率変動からの電波散乱(RASSエコー)を受信する。RASSエコーのドップラー偏移から音速を知り、さらに状態方程式により気温(仮温度)を求める。ここで、発射された音波は地上風および上空の風の影響を受けて進行方向が大きく変動する。また、気温の高度変化にともない一般に音速も遅くなる。RASSでは、音波面の局所的な伝搬ベクトルと大気レーダーのアンテナビームが平行となり、かつ電波と音波の波長が2:1になることが強いRASSエコーを検出する必須条件である。RASSの難題は、音波面が背景風により短い時間スケールで大きく変形することである。そのため、レーダーのアンテナビームを的確かつ迅速に走査する必要がある。本年度は、信楽町にあるMUレーダーにおいて、音波の伝搬特性をリアルタイムでモデル計算し、レーダーのアンテナビームを最適に走査することでRASS観測の効率を向上させる手法を開発した。この際、RASS用音源と大気レーダーの相対的な位置関係も考慮する必要があることが分かった。 一方、RASS用音源の音圧強度、音波パルスの周波数範囲(チャープ信号)や送信繰り返し間隔も重要である。これらの課題を研究するために、インドネシア・西スマトラにある赤道大気レーダー(EAR)を用いたRASS観測を新たに実施するとともに、過去のデータも含めて解析を行い、成果を国際誌に公表した。またインドネシアの共同研究者がこの課題について国際会議等で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、音波の伝搬特性をレイトレーシングによりリアルタイムにモデル計算し、レーダーのアンテナビーム走査方向を決定する手法を開発した。さらに、赤道大気レーダーを用いたRASS観測実験を実施し、成果を国際誌や国際会議等で発表した。研究は順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに行った赤道大気レーダー(EAR)を用いたRASSでは、地上約1㎞から高度約14㎞まで気温が計測できた。このために、大出力の音波発射器(SPLで約135dB)を作成し、EARのアンテナの中心部およびアンテナ面の周辺に音源を配置した。これらの音源を想定して音波のレイトレーシングを行い、観測高度範囲を広げつつ時間連続に気温を測定する観測を企画・実行する。これにより、熱帯域の下部・中部対流圏における積雲活動に伴う風速・気温擾乱を数分と150mの時間・高度分解能で観測し、大気力学現象の特性を解明する。観測キャンペーンの時期としては、インドネシアの乾季(11月~3月)、およびアジアモンスーンのon-set時期である6~7 月、さらに積雲活動が活発な8~10月を目標とする。 一方、インドネシア上空の対流圏(CPT:Cold Point Tropopause)は高度17㎞付近に位置するため、EARのRASSでは定常的には観測しにくい。これはEARのレーダー探知能力の限界に近いこともあるが、音波面が背景風の影響でEARから遠くに流され、RASSエコーを受信する条件が達成されなくなることが主要因である。しかし、過去20年間近くにわたって蓄積されたEARによる風速測定結果を統計解析したところ、背景風が非常に弱くなり安定する時期があることが分かった。その特定の時期を選び、対流圏界面高度を中心に気温の微細な時間変動を観測する。これは世界でも前例のない試みであり、成功すれば、上部対流圏・下部成層圏(UTLS: Upper Troposphere-Lower Stratosphere)における、大気力学過程および大気物質の輸送・混合過程の解明に大きく貢献すると期待される。
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Causes of Carryover |
(理由)交付額が当初要求額よりも減額されたため、2019~2020年度の観測実験の予算が不足している。そのため、2018年度はできるだけ節約に努め、次年度以降に使用することとした。 (使用計画)上記の通り、2019年度の観測実験実施のために使用する。
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Research Products
(8 results)