2018 Fiscal Year Research-status Report
Clarification of global warming based on changes in the deep ocean
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18K03752
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
内田 裕 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任技術研究員 (00359150)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 海溝 / 温暖化 / 低酸素化 / 低塩分化 / 深層循環弱化 |
Outline of Annual Research Achievements |
太平洋海盆規模の深層水の水温、塩分、溶存酸素の長期変化を調べるために、南・北太平洋で実施された大洋横断高精度船舶観測(WOCE再観測)データの解析を行った。北太平洋で見られた低酸素化や太平洋を北上する底層水の流量減少が南太平洋においても確認できた。これは、北太平洋深層で見られた低酸素化などの長期変化が、局所的な変化によるものではなく、南極周辺で沈み込み太平洋全体の底層に広がる深層水の長期変化であることを示唆する。伊豆・小笠原海溝など日本周辺の海溝内の海水は海溝と接続する海盆の底層の海水で満たされているので、海溝内の海水特性を高精度に測定できれば、太平洋全体の深層循環の変化を検出できる可能性があることを示している。そこで、塩分および溶存酸素の高精度な比較可能性を確保するための密度・溶存酸素測定用標準海水を製造した。超大容量(500 L)オートクレーブを用いることで過去に試作した標準海水よりも均質性を大きく向上させた。また、標準海水容器の内蓋サイズの微調整と外蓋全体をブチルゴムで覆うことで水蒸気・ガスバリア性能向上を目指した。この標準海水を用いることで、海洋研究開発機構や気象庁で実施している塩分・溶存酸素の高度な比較可能性の確保が可能になる。また、実験室、および、現場海洋(最大10,000 m)で海水密度を超高感度に測定可能な屈折率密度計を整備した。この屈折率密度計を密度・溶存酸素測定用標準海水で校正して用いることで、塩分測定用標準海水(IAPSO標準海水)のロット間のオフセットの精密な評価、海溝を含む現場海洋での密度(塩分)の精密な評価が可能になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の推進に必要な密度・溶存酸素測定用標準海水、および、屈折率密度計の開発が順調に進んでいる。標準海水の塩分の均質性は高く(0.0002 g/kg)、長期間の保管を模した加速試験(40℃の環境で1ヶ月保管)でも塩分値とそのばらつきに変化は見られなかった。また、屈折率密度計については、密度測定の標準偏差が極めて小さい(0.0001 kg/m3程度)。密度・溶存酸素測定用標準海水を用いて屈折率密度計を校正することで、現状の電気伝導度・水温・深度計の測定精度・分解能では検出が困難な北太平洋底層の塩分変化を検出できるかもしれない。海水密度を最も高感度に測定できる密度計として論文を投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、大洋横断観測に比べ多くの観測データが利用できる太平洋の各海溝域で、高精度船舶観測(WOCE再観測)データに加え、海洋研究開発機構や気象庁で実施している高精度データを収集・整理し、海溝内の水温、塩分、溶存酸素の長期変化を調べる。海洋研究開発機構や気象庁が実施する定線観測航海等を利用し、日本周辺の海溝内での高精度観測データを蓄積する。伊豆・小笠原海溝において、塩分・溶存酸素の超高精度観測を実施する。具体的には、密度・溶存酸素測定用標準海水、および、屈折率塩分計による絶対塩分の超高精度測定を導入する。現状の電気伝導度塩分計(測定精度は1 mg/kg程度)よりも高い精度での測定が期待できる屈折率塩分計(分解能は0.12 mg/kg)を密度(絶対塩分)測定用の標準海水で校正して使用する。溶存酸素については、密度・溶存酸素測定用標準海水を各航海で測定し、ヨウ素滴定分析の不確かさ要因を精査し、さらなる高精度化を検討する。2020年度は、蓄積した観測データを元に、南・北太平洋における海盆規模の深層水の長期変化と各海盆に接続する海溝内の水温、塩分、溶存酸素の長期変化の関係を明らかにする。水温の変化から深層水の量の変化(南方への深層水の後退)を求め、溶存酸素の変化からその影響を差し引き深層水の滞留時間の変化を求め、深層循環弱化を検証する。塩分の超高精度観測から、北太平洋底層における南極氷床融解の影響の検出可能性を検討するとともに、将来の影響評価に向けた基礎データを蓄積するとともに、得られた成果を公表する。
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