2019 Fiscal Year Research-status Report
金・白金族元素沈殿の成因解明―ナノレベル存在形態解明の新展開
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18K03758
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
森下 祐一 静岡大学, 理学部, 教授 (90358185)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 金 / 白金族元素 / 存在形態 / SIMS / 微小領域分析 / 沈殿機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
金 (Au) は多岐に渡る産業で利用されており、白金族元素(PGE)は自動車の排ガス浄化装置に不可欠な元素である。これらの元素は地殻におけるAuの存在度は 1ppb オーダーであり、PGEに至っては 6元素すべてが 1ppb以下の存在度しかないレアメタルであり、ミクロなスケールで偏在している事が多いと考えられている。それら元素の存在形態を鉱床成因と関係付けて明らかにすることは重要である。 硫化鉱物中に光学的に見えない形で存在する「見えないAu」は結晶格子中に存在するAuイオンまたは100nm以下の0価のAu(ナノゴールド)として産出する。二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いた微小領域定量分析により、低硫化型の菱刈鉱床において黄鉄鉱の3ミクロン領域でのAuとヒ素(As)の定量値の正の相関からAuの沈殿メカニズムを考察した(Morishita et al., 2018)が、本年度は以下の鉱床での分析値を菱刈鉱床と比較した。高硫化型の南薩型金鉱床では黄鉄鉱中のAuとAsは菱刈鉱床より低い範囲にある。南アフリカの縞状鉄鉱層(BIF)に胚胎するAu鉱床では黄鉄鉱と磁硫鉄鉱中のAs濃度とAu濃度はいずれも低かったが、磁硫鉄鉱中のAuはしばしばナノゴールドとして存在していることが明らかになった。世界最大の産金地域である南アフリカヴィットウオータースランド盆地のAu鉱床では、黄鉄鉱中のAs濃度とAu濃度はいずれも低かったが、比較的大きな範囲をとる。これらは黄鉄鉱形状の円摩度との相関が見られ、礫岩が堆積した後の熱水活動によりAu-As濃度が改変したものと結論づけた。 白金族元素に関しては、鉄マンガンクラスト中にプラチナ(Pt)が濃集していることが知られている。本年度はクラストのSIMS深さ方向分析を行い、クラストが成長する時間軸方向にPt濃度の高空間分解能・高感度分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
世界有数の金品位を持つ鹿児島県北薩地域に胚胎する低硫化型浅熱水性金鉱床である菱刈鉱床において得られた黄鉄鉱中のAuの挙動を、異なる地質環境で胚胎した鉱床における分析データと比較した。鹿児島県南薩地域に胚胎する高硫化型浅熱水性金鉱床は従来から鉱物組み合わせ等の産状が異なることが報告されているが、黄鉄鉱中のAu微小領域分析値を比較した。このほか南アフリカ共和国グリーンストーン帯の34億年前のBIFが熱水活動により鉱化して生成した金鉱床の黄鉄鉱と磁硫鉄鉱、同じく南アフリカのヴィットウオータースランド盆地に分布する金鉱床の黄鉄鉱について、SIMS微小領域Au-As分析値の全てをAu-As濃度図の上で比較して産状と成因から解釈を行なった。研究成果はMorishita et al. (2019)として公表した。 一方、炭酸塩鉱物を産出する金鉱床について、熱水の起源や進化を明らかにするために炭酸塩鉱物(シデライト、アンケライト、カルサイト)の炭素・酸素同位体比分析を行った。カルサイトの炭素-酸素同位体比トレンドが金鉱床の基盤岩の種類に規制されるとの研究(Morishita and Nakano, 2008; Morishita and Takeno, 2010)を下敷きにして、菱刈鉱床を含む北薩地域の金鉱床について詳細に検討した。菱刈鉱床ではミクロトームを用いて微小領域における炭素-酸素同位体比トレンドを解析したところ、これまで得られていた他の北薩地域の金鉱床におけるトレンドと異なる分析結果が得られた。このことは北薩地域において菱刈鉱床が特異的に高い金品位を持つことと関係があることを示している、と解釈した。
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Strategy for Future Research Activity |
金鉱床の成因に関して堆積岩中の軽い炭素同位体を持つ有機炭素により鉱床の炭素同位体比も低くなるなど、金鉱床の基盤の違いに応じて熱水の炭素・酸素同位体比トレンドが異なるとの研究成果がある(Morishita and Nakano, 2008; Morishita and Takeno, 2010)が、金鉱床に加えて他のタイプの鉱床をも対象として、鉱脈中の炭酸塩鉱物(シデライト、アンケライト、カルサイト)の炭素・酸素同位体比を用いて熱水の起源や進化を明らかにする。 対象鉱床は伊豆半島南部の鉱床、北海道の上国鉱床、スカルン型鉱床である神岡鉱床、そして米国アラスカ州のポゴ鉱床である。これらの鉱床について、今年度までに炭酸塩鉱物の炭素・酸素同位体比測定は行っており、部分的に明らかに低い炭素同位体比が得られるなど、これまでの知見に新たな解釈を加える必要がある分析結果が得られてきている。今後は同位体比以外のデータと合わせて検討することにより、熱水の起源や進化について明らかにしていく予定である。 一方、白金族元素(PGE)に関して鉄マンガンクラストと並ぶ対象として世界最大の白金族鉱床が分布する南アフリカのブッシュフェルト複合岩体についても研究を進めている。硫化鉱物の中に存在している白金族元素が多いが、これら「見えないPGE」の存在形態をSIMSで分析し、クロム鉄鉱の元素組成に着目してEPMA分析も行い、これまで数多く提出されているPGE鉱床の成因論にいくつかの制約条件を課したい。
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Causes of Carryover |
SIMS分析において、定量分析値を得るためには分析対象試料それぞれに対して標準試料を準備し、その標準試料の分析を予め行っておくことが必要である。本研究で使用する主要な標準試料についてはすでに分析済みであるが、次年度の研究に使用する標準試料の解析を今年度に行うこととしていて、SIMS深さ方向分析まで行った。その後に、標準試料のSIMS深さ方向分析で生じたスパッタ孔の深さをダイヤモンド触針式の荒さ計で精密に計測する必要があるが、SIMS深さ方向分析が想定よりも複雑なものとなったため、同装置を保有する機関への依頼分析が年度内に行えなかった。 次年度は、2年目に行う予定だったスパッタ孔の深さ計測の依頼分析に加えて、全岩化学組成を求めるための依頼分析と安定同位体比依頼分析を行うために助成金を使用することにしている。また、東大大気海洋研究所のNanoSIMSで分析を行うための出張のほか、論文校閲と論文投稿料として使用する予定である。
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Research Products
(11 results)