2018 Fiscal Year Research-status Report
Investigating the formation process of fine-grain Holocene layers in the Tokyo Bay area from a physical-oceanographic perspective
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18K03761
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上原 克人 九州大学, 応用力学研究所, 助教 (80223494)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 東京湾 / 沖積層 / 古潮汐 / 古環境復元 / 完新世 / 海面変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、海面が上昇し、東京湾に海水が本格的に侵入した過去1万年にわたる潮汐の変化を数値シミュレーションにより復元した。当初の予想に反し、東京湾で最も潮汐が発達していた(湾内における潮差増幅率が最も大きかった)のは湾域が拡大していた縄文海進期ではなく、その前の完新世初期と呼ばれる約9千年前で、潮汐はその後次第に弱くなっていったことが明らかになった。 古潮汐復元に際しては、最初に潮汐推算の精度を左右する当時の海底地形のデータ作成を行った。関東平野南部は世界的に見ても完新世の地層が詳細に調べられている地域であるが、本研究の対象となる東京湾周辺域の地形発達を統一的に復元した例は過去40年間行われていなかった。そのため過去10年間に実施された東京低地、中川低地における高密度地質調査の結果など、最新の知見を取り入れるとともに、各地の地質学的研究成果の収集・統合を進めることにより研究対象域の千年ごとの地形変化を復元した。今回作成した地形データでは、例えば東京低地の埋没谷地形の最大水深が、これまで古環境復元にて一般的に使用されてきた30年前の推計値の3倍に達し、この違いは今回の潮汐推算結果にも大きく影響していた。 併せて、本研究から得られた古潮汐変動のメカニズムについても力学的に解析を行い、潮汐が次第に弱くなった要因として、完新世初期から中期(約7千年前まで)にかけては急激な海面の上昇が、それ以降の時期は湾長の縮小が寄与していたことが明らかになった。今回得られた成果は、東京湾のみならず、伊勢湾や韓国南岸域など、東・東南アジアに多く存在する小規模内湾での千年スケールの潮汐変動や将来の海面上昇や埋め立てによる海岸線の縮小が内湾潮汐に与える影響を理解する上で役立つことが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は当初の計画通り、古地形データの作成、並びに数値シミュレーションによる古潮汐復元を実施することができた。数値シミュレーションからは、事前の予想に反して潮汐が最も強かった時期が、東京湾が最も拡大した完新世中期ではなく、海面が低かった完新世初期であるとの結果が得られ、その解釈に時間を要したが、力学的な検討を進めたところ東京湾のような湾長が100km弱の小規模で細長い内湾の場合、完新世の潮汐変動は海面変動と湾長変化という2つの要素を考えることで統一的に理解できることが判明した。この成果は英文国際誌に投稿中で、現在査読を受けているところである。 古地形復元に関しては、数多くの資料を収集し、取りまとめることで、東京湾周辺域全体を統一的に扱った古地形データを作成した。関東平野南部では、各地で詳細な地質調査が行われているが、全体をとりまとめた資料は過去40年間作成例がなく、今回の成果は特に過去10年間に実施された東京低地、中川低地の高解像度の地質解析結果が反映されていることが特長である。ただし、東京湾の千葉県側などデータ作成に際し、十分な資料が得られていない地域もあり、より多くの資料を収集し、地形データの精度向上に取り組む必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後2年間は、(1)古地形データの精度向上、(2)波浪モデルの開発、(3)得られた古波浪、古潮汐復元結果と東京湾周辺の古地形や堆積情報との対比、(4)堆積輸送モデルの開発、(5)数値計算結果と地質資料との対比から得られた知見に基づく沖積層形成過程の理解、を目指す。古地形データに関しては、令和元年度中に公表見込の千葉県北部のボーリングコア解析結果を利用する予定である。現時点では、研究計画の大幅な変更は想定していない。
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Causes of Carryover |
予定より1年早く英文国際誌へ投稿することになり、当初想定していなかった論文校閲費を計上することになった一方で、研究遂行に必要なデータの発刊時期が1年遅れることが判明したため、資料収集のための出張を実施しなかった。以上2点が主な要因となり次年度使用額が発生した。
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